ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2025-01-01から1年間の記事一覧

だからわたしは全集にこだわる

本に関して、これが今年最後の大きな買い物になると思います。古本の「川端康成全集」(19巻、新潮社)を、ヤフーオークションで送料込み9,000円で落札しました。意外に安く手に入ったのは、昭和44(1969)年から同49年にかけて刊行された旧版の全集だからで…

その古本屋を訪ねたくなる 〜「森崎書店の日々」八木沢里志

たまたまこれを書いている今日が12月24日で、たまたま「森崎書店の日々」(八木沢里志、小学館)という本を最近読んだのですが、ふと、「これはクリスマスイブにぴったりの小説だ」と思いました。一人だけのイブの夜、ページをめくれば、静かに心が潤ってき…

児童文学の永遠の古典 〜「ナルニア国物語」C・S・ルイス

この物語を初めて読んだのは、小学校の何年生だったろう。やがてあらすじさえ忘れてしまったけれど、あのときページをめくりながら、異世界に飛ばされて大いなる試練に直面した「わくわく」と「どきどき」は、消えることなく心に刻まれました。地面が割れて…

ゆきてかへらぬ それぞれが 〜「中原中也との愛」長谷川泰子 村上護編

男と女とは、いったいなになのか。 「中原中也との愛 ゆきてかへらぬ」(長谷川泰子・村上護編、角川ソフィア文庫)を読み終えて、今更ながらそんな陳腐な問いかけが思い浮かびました。 もとより、人と人の結びつきは一つとして同じでない以上、この問いかけ…

散る秋を...

昨日までの休日は秋の後始末。 落ち葉が庭を覆う時期、殺風景でもふと見渡せば赤が目に入ります。 散る秋を集めてひとり咳をする

嘘が現(うつつ)を救う 〜「木挽町のあだ討ち」永井紗耶子

うう。やるねえ。参ったなあ。 さすがに声には出さないけれど、感嘆し何度も心で唸っておりました。こいつは本物だぜと、ぺえじを捲りながら、分もわきまえず作者の才に驚き。 一度など目頭が熱くなりかけ、「やばい」と天を仰ぎ、目を見開いて目ん玉乾かし…

汚れっちまった悲しみに 〜「朝の歌 中原中也傳」大岡昇平

初めて足を踏み入れた小さな町の図書館でした。左にカウンターがあり、奥に広がる閲覧室の手前、テーブルにリサイクル本が並んでいることに気づきました。リサイクル本は、在庫処分の廃棄本。「ほしい本があれば自由にお持ち帰りください」という趣旨です。 …

昭和が残る飛驒路は...英語圏 〜高山にて

2時間半、車のアクセル踏んで紅葉の山道を楽しみ、岐阜県高山市へ行ってきました。本州の真ん中を縦断する高速道路(東海北陸道)を使えば、少しは時間短縮できるのですが、長いトンネルが多ので旧道を走りました。 山々は見事に色付いていました。あの猛暑…

公務員化した戦闘のプロ 〜「戦国武家の死生観」F・クレインス

「武士」という言葉から、なにを連想するでしょうか。 合戦、切腹、武士道、男...。「武士は食わねど高楊枝」「武士の商法」など。改めて考えてみれば、いろんなイメージが浮かんで、模糊としています。小説の主役になる武士も、戦国の覇者から市井の剣客、…

武闘派女子は無垢ないのちのために 〜「ババヤガの夜」王谷晶

ロンドンの街中の本屋さんを何軒か訪ねたとき、意外だったのは日本人作家の英訳小説がけっこう並んでいることでした。「へえ〜」そうなんだ、とそのとき思い。村上春樹さんだけでなく、あまり売れそうにない純文学系の作品がいろいろあったのです。 ただし別…

フィレンツェに行きたくなった 〜「イタリア・ルネサンス」池上英洋

レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロを代表格に、数々の天才や万能人を生み出したルネサンスとはなにだったのか。「イタリア・ルネサンス 古典復興の萌芽から終焉まで」(池上英洋、創元社)はその疑問に対し、明確な道筋をつけて読者を案内し、答えに導…

男子厨房に入り グリーンカレーを作る

わたしの気分転換、ストレス解消は厨房に立つことだと、これまで何度かブログに書いてきました。引退した身だからのんびりすればいいのに、絵が進まない、積ん読本がまた増えた、月末までに秋剪定を終えたい...などなど、年中あれこれ自分を追い立ててしまう…

2025年四季の絵日誌、ようやく夏に

ずいぶん秋らしくなりました。昨年より1週間遅れでキンモクセイが咲き始め、香りが漂ってきます。そろそろ夜の焼酎もロックかお湯わりか迷う。この悩ましさも、わたしの例年の風物詩?かな。 2025年の年明け、花盛りだったのはサザンカでした。うちの庭には…

日本と中国の歴史 大河が交わるときへ 〜「森羅記」北方謙三

北方謙三さんの新しい歴史大作の刊行が始まりました。「森羅記 一」(集英社)は、ユーラシア大陸を横断する大帝国・モンゴルと、日本の鎌倉時代を舞台に、二つの物語が同時進行します。 モンゴルの主人公は、帝国の祖チンギス・カンの孫にあたるクビライ。…

昨夜は仲秋の名月

昨夜、10月6日は仲秋の名月でした。 知人によると、関東地方は雲で見えなかったそうですが、わたしが住む地はまだ日没前の夕方から、丸いお月様がぽっかり東の空に浮かんでいました。 すっかり暗くなった午後7時半過ぎ、庭に初心者用の天体望遠鏡を持ち出し…

補遺 〜ロンドンぶらある記・最終回

8月下旬から9月初旬にかけてのロンドン滞在は、漠然とだけれど、どこか深いところで自分を変えてくれた気がします。たくさんの絵を見たからとか、観光名所を巡ったからではなく、短期間とはいえ日常生活に身を置き、雑多な現実を受け入れて対応した経験が、…

読書する女は危険である 〜ロンドンぶらある記⑩

ロンドンのガイドブックによると、ナショナルギャラリーから南に延びる大通りを数分歩くと、右に折れる小さな横丁があります。それがセシル・コート通り。古書店が軒を連ね、「ハリーポッター」に出てくる<ダイアゴン横丁>のモデルなんだとか。 「ハリーポ…

白い絶壁 セブン・シスターズ 〜ロンドンぶらある記⑨

特に風の強い日ではなかったのですが、イギリスは天候が変わりやすく、夏でも晴れの30分後には雲に覆われ、雨風が吹き付けます。波が白く砕けて打ち寄せ、ヒース(荒地)の草が風になびく。セブン・シスターズを訪ねたのはそんな日でした。 ロンドンから南へ…

描かれた女性2人になにを見るか 〜ロンドンぶらある記⑧

ドイツ文学者の中野京子さんが、独特の視点で名画を解説した「怖い絵」という本がシリーズ化(角川文庫)されています。わたしは未読ですが、「怖い絵 泣く女篇」を書店で手に取ったことがありました。カバーに使われている絵が印象的だったで、その章だけざ…

英国にも新宿にもひまわりは咲き 〜ロンドンぶらある記⑦

ナショナル・ギャラリーを訪れる人で、この絵が目当てという人はかなりいると思います。フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」。 環境保護団体の青年というか少年たちが、この作品にトマトスープを投げつけたのは2022年。同じ団体はその前、ルーブル美…

ネーデルランドの絵描きたち 〜ロンドンぶらある記⑥

ロンドンのナショナル・ギャラリーは、入場口のあるセインズベリー館と、空中の通路でつながった本館があります。セインズベリー館は西暦1500年までの絵画、本館は16世紀以降という作品構成で展示されています。 いったん入ると、展示室は前後左右に延々と連…

聖アンナの微笑みに魅せられ 〜ロンドンぶらある記⑤

正面に古代ギリシャを模したコリント式円柱の列。ロンドンのナショナル・ギャラリーは、トラファルガー広場を前庭のように持つ、古典主義の壮大な建築です。 大英博物館が世界の文化財の殿堂なら、こちらはパリのルーブル美術館に迫る絵画の宝庫。13世紀以降…

大英博物館で広重に出会う 〜ロンドンぶらある記④

浮世絵で一番好きな作品を問われたら、幾つか思い浮かんで困ってしまうけれど、その「幾つか」の中に確実に入るのが広重の「蒲原」です。正確には、東海道五十三次之内十六「蒲原 夜之雪」(かんばら よるのゆき)。 風のない夜、しんしんと降り積もる雪。遠…

大道芸あれこれ 〜ロンドンぶらある記③

トラファルガー広場は、イギリス最大の美術館「ナショナル・ギャラリー」に面しています。広場南は官庁街、北はピカデリーなどの歓楽街が広がり、連日多くの観光客でにぎわっています。ビルの間からビックベンも遠望でき、石段に腰掛けてひと休みし、もぐも…

古きイングランドを求めて 〜ロンドンぶらある記②

コッツウォルズ(Cotswolds)は、ロンドンから高速道路を使ってバスで1時間半ほど、イングランド中央部に広がる丘陵地帯です。中世以降、高級羊毛の産地として栄えましたが、産業革命とともに次第に衰退。やがて忘れられた田舎になりました。 現在、コッツウ…

愛書家であるほど 救われる1冊 〜「積ん読の本」石井千湖

イギリス出発前に少し読み、続きは帰国後にしようと、栞を挟んで机の上に置いた1冊が、「積ん読の本」(石井千湖、主婦と生活社)でした。ちなみに13時間のフライト中、エコノミークラスの狭い座席に呻吟し、行きは東野圭吾さんの「幻夜」、帰りは伊坂幸太郎…

パブは楽しい でも金額にご注意を 〜ロンドンぶらある記 ①

覚悟はしていたけれど、9月になっても37度を超える日本の暑さ。羽田空港のビルを出たとたん熱気に包まれ、汗が吹き出しました。昨日(2025年9月2日)、2週間ぶりにロンドンから帰国しました。 ロンドンの緯度は北海道より北で、樺太と同じくらい。わたしの滞…

老いては子に....

18日羽田前泊で、9月初旬まで涼しいロンドンに国外脱出します。お盆のラッシュも過ぎ、チケットはまだいくらか余裕があるようです。 まず大英博物館とナショナルギャラリーは必須として、次にコートールド美術館、ついでにあそこのギャラリーへも行って...。…

井筒にかけし...純白の恋 〜「伊勢物語」作者不詳

「伊勢物語」と聞いて、は?。 高校時代に古文の教科書にあった気がするけど...というのが、そもそものわたしの知識でした。数年前、高樹のぶ子さんの「小説伊勢物語 業平」(日本経済新聞社、泉鏡花文学賞受賞)という本が、書店に平積みされていたのは覚え…

花のしたにて 春死なん  〜「西行花伝」辻邦生

世の権力が貴族から武士へ移る激動の時代、若くして出家し、歌人として生きたのが西行でした。「西行花伝」(辻邦生、新潮社)は、その激動の一生を描き出します。 西行が繰り返し自らに問い続けるのは、「歌とはなにか」ということ。歌を「芸術」と置き換え…