ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

ハードボイルドへのオマージュ 〜「ピットフォール」堂場瞬一

舞台は1959年、60年あまり過去のニューヨーク。戦後の繁栄を誇る大都会には、根強い人種差別や、不用意に踏み込めば身に危険が及ぶエリアがあちこちにあります。都会の表と裏を渡り歩いて殺人鬼を追う主人公・ジョーは、元ニューヨーク市警の刑事で、独り者…

酔筆夕刻

新緑から、日々緑が濃くなる5月。現代は冬なら暖房、夏は冷房のために窓を閉め切る生活が普通ですが、今はどこも窓を開けるシーズンなので、ご近所の生活の音が聞こえてきます。 わたしは庭に出ている時間が多く、夕刻にもなれば隅のベンチでビールを飲み始…

臥す枯野なほかけ廻る夢心 〜「永訣かくのごとくに候」大岡信

<死>とは何か、人は決して知ることはできません。死んでから甦って語ることがない以上、つねに<死>は生きている人の中にある、さまざまなイメージです。 <死>について語るとは、<死>を前にした<生>の在り方をつづることになります。辞世の句、遺作…

もう、2年なのか 〜ご挨拶に代えて

風薫る、5月。2019年の5月下旬にブログを開設して、早いもので2年が過ぎました。その年の6月に、長く働いた仕事からのリタイアを決意していたわたしは、これからゆっくり本を楽しみ、読書記録を残そうと、初めてブログに挑戦したのでした。 個人的な<本の日…

<僕>と<世界>の息詰まる関係 〜「掏摸」中村文則

見ているけど見えていない、聞こえているけれど、聴いていない。つまり、いつの間にか「ぼー」と放心しているとき、突然肩をたたかれたら、ぎくりと条件反射します。 普段は周囲に張り巡らせている五感のセンサーが麻痺していて、いきなり何かに自分が鷲掴み…

男と女について拾い読み 〜石川啄木、大岡信

死にたくはないかと言へば これ見よと 咽喉の痍(きず)を見せし女かな 積読本の拾い読み。その面白さは、例えばこんな短歌と出会えることです。なんとも大人の世界。これを名品とは言わないけれど、ちくりと刺さったりして(わたしだけ?)。 ちなみに、こ…

だれにも届かない声 〜「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

<52ヘルツのクジラ>とは何か。普通のクジラの鳴き声は10ー39ヘルツの周波数。ところが52ヘルツで鳴くクジラがいて、世界で一番孤独だと言われているそうです。仲間のクジラに、その声は高すぎて聞こえないから。 2021年本屋大賞の第1位になった「52ヘルツ…