ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

「積ん読」と鉛筆デッサン

読むつもりの本や雑誌は、しっかり机に積まれているのに、このところなかなか手に取る元気が出ません。文藝春秋3月号は、新芥川賞の「推し、燃ゆ」を読みたくて買いました。ところが新型コロナ第3波「失敗の本質」という特集が組まれていて、今はまずそち…

セーターが、床に倒れて 〜「夢の燃えがら」一色真理

愛 ノートの一頁目は白紙。 ここにきみはいない。 一色真理さんという、詩人がいます。わたしは最初、真理を<まり>と呼んで女性だと思っていました。詩集「夢の燃えがら」(花神社、1982年)をむかし読んだ時、冒頭から数篇、詩の雰囲気からして女性で違和…

風前のともしび 燃え盛る 〜「のぼうの城」和田 竜

歴史小説は、信長や秀吉を代表とする戦国の覇者たち、あるいは彼らを支えた人物に焦点を当てるのが本流です。おなじみ、NHKの大河ドラマの原作になるような作品群。でも、普通は表に出てこない歴史の支流にも、魅力的な人物はたくさんいたはずです。 「のぼ…

ひそかに咲いた桜のような 〜「哀愁の音色」竹西寛子

雪深い地に住んでいるとはいえ、立春を過ぎれば新しく降り積もった雪も数日のうちに消えていきます。この時期からわたしの中では、春、満開の桜を待つ心が密かに芽吹きます。 圧倒されるような桜の名所はもちろんいいけれど、たまたま出合った公園に立つ1本…

料理して母の言葉を思い出す

在宅で細々と仕事をし、それも最近はけっこう暇で(う...)、昼は一人買い溜めした冷凍食品ですませています。まあ、わたしの食のレベルは現状、そんな具合です。 まだお気に入りの冷凍坦々麺とかパスタの在庫はあるのに、スーパーへ出かけたのは、PayPayで…

朝がきて、働いて、コップ酒で1日が終わる 〜「苦役列車」西村賢太

草食ではなくて肉食。若い男の体臭が、むんむん臭ってくる小説です。ただしライオンのような猛々しさ、かっこよさは微塵もありません。 汗、酒、煙草、そして浅ましさや愚かさ。冷酷になれないから、犯罪者にもなれない平凡さ。しょせん俺とうい人間はこうな…

森田知事が青春のシンボルだったころ 〜「文學界」昭和60年11月号

お世辞にも几帳面とは言えない性格だから、本の整理がつかなくなって、ずいぶんになります。だからある本を探していたら、書架の奥から雑誌「文學界」昭和60(1985)年11月号が突然出てきても、なんら不思議はありません。 不思議なのは、なぜこの年のこの文…