ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

無力な人 寄り添う人 〜「イエスの生涯」遠藤周作

これは評伝なのか、小説なのか。「イエスの生涯」(遠藤周作、新潮文庫)を読めば、だれもがそう思うでしょう。紀元前3年に生まれ、ナザレの町で貧しい大工として働き、短い生涯の晩年に弱きものへの愛を説き、33歳ごろ十字架の磔になって刑死したイエス・キ…

蕎麦 飛騨路と剣客商売 〜食の記憶・file7

特段、蕎麦にこだわりはないけれど、あの歯触りと淡白で微妙な味、喉越しはうまいと、60歳を過ぎてから知りました。十割、八割、それぞれの風味があります。 地元の駅の立ち食いだって捨て難い。これは立ち食いが、激務だった現役時代のさまざまな記憶と結び…

ドタバタに笑い、じんわり胸にきて.. 〜「赤めだか」立川談春

春から50号のキャンバスに風景を描き続けて、一向に完成のめどが立ちません。心のエネルギーと時間を、延々と費やしています。 わたしの場合、何時間も一心不乱に描き続けることは到底できません。細部まで妥協しない写実を目指していると、こんをつめて筆を…

風景論 〜追悼 谷川俊太郎

風景論 夢のなかで空を飛んでいるとき、鳥になったわけではない。 わたしはいつも人のかたちをし、不器用に苦しんで宙をさまよい、地に戻れないでいる。 西暦2024年11月19日。運転中の交差点で、 銀杏並木の向こうに、山脈と空を見た。 鳥になって、風になっ…

読めば食したく、また飲みたくなり 〜日本の名随筆26「肴」池波正太郎編

食べ物について書かれた文章の良し悪しは、簡単に判断できます。あくまで個人的基準によって、ですが。読んで食したくなるかどうか。目で文字を追いながら、口中に唾が滲んでくるようであれば名文です。 多少日本語として乱れを感じたとしても、評価は揺るぎ…

民宿で痛飲の朝、海に光射す 〜家持歌と芭蕉から

脂がのった海の幸・寒ブリで知られる、富山県氷見市の民宿に一泊しました。和室の部屋は海に面し、窓を閉めても潮騒の音が聞こえてきます。階段を降りると露天風呂。ここからも海と、海の向こうに冠雪した北アルプスを一望できました。 痛飲して畳に敷かれた…

古代史を巡った6日間 〜ぶらぶら歴史好きの奈良路

10月最後の月曜日から11月初めにかけて、奈良を巡ってきました。朝に車で家を出て、昼食や休憩をはさんで5時間。JR奈良駅に近いホテルに早めにチェックインしました。 大和国(やまとのくに=奈良県)は、古代史の中心舞台です。これまでわたしは2回しか訪ね…