ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

ふと目にした北鎌倉、祈りの光景

雨の鎌倉を訪ねたのは1年前でした。 名古屋、東京にそれぞれ用事があって高速バス、新幹線を使って回りました。用事といっても仕事ではなかったので、余裕を持った3泊4日。2泊した東京では美術館巡りを1日、もう1日は小雨の中、30数年ぶりに鎌倉へ。 北鎌倉…

柿を齧って思いをはせる 〜柿の文化史

80歳をとうに越えた農家の叔父が、軽トラを運転して柿を届けてくれました。これから雪が降ると、白い景色の中に鮮やかに色映えるのは柿です。わたしにとっては冬の初めの見慣れた景色でありながら、どこか懐かしい点景。 江戸時代から、越中の農民は飢饉に備…

その女、魅力量りがたし 〜「和泉式部日記」

<女>は世を儚み、日々打ちひしがれていました。愛し尽くした男が前年、若くして病死したからです。 亡くなった男、実は妻帯者でした。おまけに将来は国のトップになったかもしれない皇族。一方で<女>の方にも、役人の夫と幼い娘がいました。許されぬ2人…

のろまで不器用で、泣き虫な<希望> 〜「さぶ」山本周五郎

江戸・下町の表具店で、一人前の職人を目指して修行する栄二とさぶ。男前で仕事もめきめき腕を上げる栄二に対し、さぶはずんぐりした体型、のろまで不器用、おまけに泣き虫。同い年の二人は、強い友情で結ばれ助け合っています。 ところが23歳になったある日…

秋の譜

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 あまりにも知られた、川端康成「雪国」の冒頭。作品のこの入り、続くセンテンスと一体になることで、見事な存在感を獲得しているのです。 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号…

生きること、夢見ること 〜「更級日記」の魅力

父の地方勤務に伴い、思春期を草深い東国で過ごす少女。彼女は姉や継母から、光源氏のことなど様々な物語について教えられます。すぐにも読みたいのですが、何しろ田舎のこと。本屋さんなんて、どこにもない時代です。 「更級日記」=菅原孝標の女(すがわら…

秋の日射しのような... 〜「古本食堂」原田ひ香

11月に入って庭のドウダンツツジが赤く色づき、斜めから射す光を浴びています。夏の太陽は頭上から照りつけるけれど、冬を控えたこの時期は真昼も空の低い位置から光が射し、景色が輝いて見えるのはそのせいだろうか...と、ふと思いました。 「古本食堂」(…