ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

日日雑記

文字通り、身辺雑記の雑文です。エッセーと称する自信はありません。本に関する雑文であることも多いので、<小説>など他のカテゴリーと重複していることもあります。

蕎麦 飛騨路と剣客商売 〜食の記憶・file7

特段、蕎麦にこだわりはないけれど、あの歯触りと淡白で微妙な味、喉越しはうまいと、60歳を過ぎてから知りました。十割、八割、それぞれの風味があります。 地元の駅の立ち食いだって捨て難い。これは立ち食いが、激務だった現役時代のさまざまな記憶と結び…

風景論 〜追悼 谷川俊太郎

風景論 夢のなかで空を飛んでいるとき、鳥になったわけではない。 わたしはいつも人のかたちをし、不器用に苦しんで宙をさまよい、地に戻れないでいる。 西暦2024年11月19日。運転中の交差点で、 銀杏並木の向こうに、山脈と空を見た。 鳥になって、風になっ…

民宿で痛飲の朝、海に光射す 〜家持歌と芭蕉から

脂がのった海の幸・寒ブリで知られる、富山県氷見市の民宿に一泊しました。和室の部屋は海に面し、窓を閉めても潮騒の音が聞こえてきます。階段を降りると露天風呂。ここからも海と、海の向こうに冠雪した北アルプスを一望できました。 痛飲して畳に敷かれた…

古代史を巡った6日間 〜ぶらぶら歴史好きの奈良路

10月最後の月曜日から11月初めにかけて、奈良を巡ってきました。朝に車で家を出て、昼食や休憩をはさんで5時間。JR奈良駅に近いホテルに早めにチェックインしました。 大和国(やまとのくに=奈良県)は、古代史の中心舞台です。これまでわたしは2回しか訪ね…

夜食に切り餅と青紫蘇を食う 〜食の記憶・file6

夕食後、食器を洗ってから部屋に行き、焼酎お湯わりを飲みながら、読書やオンラインゲーム、油彩のお絵描きで過ごすのが日常になっています。合間を見つけて風呂に入り。 本が面白いと、すぐに午前1時2時になってしまう。翌朝の出勤時間を気にしなくていいの…

読書の秋、芸術の秋

春から50号のキャンバスに油彩で風景を描いていて、苦労して神経を削りながらも、まあ(たぶん)楽しんでいます。50号(畳1枚の4分の3くらい)は一般的には大作でないけれど、わたし的には大作〜!というサイズなのです。 完成まで何年かかるか。描くほど、…

「レダと白鳥」〜レオナルド・ダ・ヴィンチの失われた傑作

空き部屋になった2階の子供部屋に、春から画材を運び上げ、画集など絵画関連の書籍もすべて移してアトリエにしました。いま、とてもお気に入りの空間です。 絵筆を持つと集中力が必要で、30分前後描くと限界に達するので、中入りの休憩を3、40分。その繰り返…

Curry カレー 〜食の記憶・file5

昭和は子供から大人まで、日本の国民食の一つがカレーライスでした。わが家では母が、わたしの好みに合わせて「ジャワカレー」(ハウス食品)の中辛を作ってくれた。 なにしろ田舎。フレンチやイタリアンは当然、和食という高級料理などつゆ知らず、カレーと…

食い道楽 日の丸お粥に中華そば 〜食の記憶・file4

ふと、ある食べ物が思い浮かび、無性に食べたくなる...こと、ありませんか? 若いころは洋食に中華、和食、創作料理、B級グルメまで、いろいろ情報を見て食べくなったものです。思い浮かべるだけで、口にじわっと唾がたまる感じ。体が、食物を求めていたのだ…

思えば遠くへ来たもんだ

たまたまSNSと、とあるブログで相次ぎ、手塚治虫が1970年に描いた同じ画像を見ました。人の一生を男女別の図にしていて、なんと10歳過ぎまでと50歳以降は、男も女もないことになってます。 手塚センセイ、多少のアイロニーを込めて描いたと想像しますが、半…

いちまいの絵

40年近く前、1週間ほどパリを訪れました。ガイドブック片手に、移動手段は地下鉄の回数券を買い、バスに乗り、郊外へは駅からフランスの国鉄で。あとは徒歩。旧ルーブル美術館は朝から夕方まで費やしてとても回り切れなかったり、アポリネールの詩「ミラボー…

ああこんな夜 また酔ってゐる 〜「続・吉原幸子詩集」など

梅雨入りし、蒸し暑い日が続きます。 最近処方された薬の副作用に、「眠気」があります。そのせいなのか、寝る前に飲むと深く眠れて朝寝坊になりました。本来の効能より、そちらに感謝したいくらい。 そして明け方によく夢を見ます。幸いにも、いい夢である…

不忍池 上野公園を歩いて

仕事を通じて知り合い、20年来の友になった4人で2泊3日、東京への「お上りさん」を楽しんできました。帰宅したらブログに書こうと思っていたのに、昨夜キーボードを叩いて記したのは、なぜか駅で買った古本のことでした。あれ。 「お上りさん」は、年に1回の…

本との出会い、そして古本屋さん

週末にかけて東京に出かけ、両国、翌日の夜は銀座の端で、友人たちと飲みました。2泊して夕方の新幹線で富山駅に帰着。改札を出ると、駅の南北をつなぐ自由通路で恒例の古本市<BOOK DAY とやま>が開かれていました。年数回、地元の古本屋さんたちがこぞっ…

風景を描き始めて

このところ、本を読むより絵を描く時間が多いのです。わたしにとって「描く」とは、自分の感性とか、絵画的な効果を考えるとか、そうした類のあらゆる人為的なフィルターを排除すること。 愚直に写実です。描く対象(モチーフ)を見続けて、それが現実に存在…

春の譜

久しぶりに会う約束をした友人から、待ち合わせ場所に着く直前にメッセージが入りました。 「病院にいる。すまん」 彼はある病気と長く付き合いながら仕事を続けています。事情をよく知っているから、怒る気になれないし、必要以上に心配もしません。ときど…

繰り返し読む本、読まない本

本好きは、常に新しい出会いを求めています。書店で、図書館で、目立つよう平積みされた本をチェックし、次は林立した書架にぎっしり並ぶ背表紙を眺めてうろうろ。事前の情報収集で、読みたい本が決まっていれば、真っ直ぐお目当ての1冊に向かうこともあるで…

日日是好日

陽が射し、朝から1カ月ほど季節を先取りしたような陽気でした。庭先で桜桃の開花が始まり、春を告げています。20年余り前、一番花の枝を折って母の枕元へ届けたことを思い出します。 末期がんで在宅死を望んだ母は、翌日逝きました。 庭に出て雪つり縄を取り…

京都・大原の早春

2月がまもなく終わる寒い日、朝から車で高速道路を走りました。行き先は京都の山里、大原。かわり映えしない日常を、変えてくれるのは小さな旅です。京都は何度か訪れたことがあっても、大原とその周辺は未踏の地でした。 現役引退し、差し迫った仕事に縛ら…

新しい絵に着手

遠くに暮らす孫娘を小品に描き始めました。 いまはざっくりした下絵の途中。気が向いたときに、これから少しずつ進めるつもりです。細部を描きこむ前なので、まだあまり女の子らしくないかなw。でも最初のざっくりで、この子の中身をつかみたい、なんて。 第…

ぼくは二十歳だった。それがひとの... 〜ポール・二ザン「アデン アラビア」のことなど

昨夜、麦のお湯割りをちびちびやりながら、武者小路実篤について書きました。小説「愛と死」の読後感を綴ったのですが、投稿を公開してから、やおら立ち上がり、踏み台に乗ってごそごそ。確かこのあたりにあったはず...と、書架の一番上の奥からポール・二ザ…

晴れ着と油彩画

絵の額装は、手塩にかけて育てた子に、晴れ着を着せるような気持ちになります。 子の出来の良し悪しは横に置いて、こんな色合いが似合うだろうか、デザインはどんなのがいいか、できれば安く...。というわけで晴れ着、ではなく油彩額を昨年末からネットで物…

翻訳家と剣客小説

常盤新平(1931ー2013)という名前を聞いて、「ああ」と、思い当たる人はそう多くないと思います。アメリカのペーパーバックスを読み漁った若い時代を描いた自伝的小説「遠いアメリカ」で、1986年に直木賞を受賞。しかし、小説は余技でした。 わたしにとって…

地震

うちは震度5強。本が落ち、水槽の水が勢いよくこぼれました。幸いにも本棚が倒れることはありませんでした。津波警報が出て、家の中を確認する間もなく車で丘陵目指したけれど、幹線道路は渋滞。あせりました。 夜9時過ぎまで避難していて、とりあえず帰宅。…

雨の大晦日

朝9時ごろ起床し、窓から外を見れば雨。大晦日といえば雪の記憶しかないけれど、いつの間にか年末年始に雪を踏む年が少なくなってしまった。子供のころは炭火の炬燵に首までもぐり込み、ブラウン管のテレビで年末特番を見ながら、まだもらってもいないお年玉…

コーヒーを淹れて「BRUTUS」を読んだ

マガジンハウスから出ている「BRUTUS」という雑誌があって、最新号の特集が「理想の本棚」。わたしは雑誌類をめったに買わないのですが、表紙に惹かれて少し立ち読みし、戻すことなくレジへ向かいました。 面白そう。この特集、本好きの一人としては、立ち読…

凪の日 夕陽の日本海と北アルプス 〜池波正太郎、カミュ

まだ初冬とはいえ、晴れた日は北陸、東北の日本海側に暮らす人たちにとってかけがえのない1日です。 寒気とともにシベリアや中国から流れてくる冷たい冬雲は、北アルプスなど本州の山々にぶつかります。雲は、日本海側に雪や雨を降らせて消え失せる。そして…

麻婆豆腐 〜食の記憶・file3

中国の四川に暮らしていた麻(まあ)婆さん。彼女が作った豆腐料理が「麻婆豆腐」のルーツだとか。30年ほど前に読んだ、中華の鉄人・陳建一さんのエッセイに書いてありました。 その本、探したのですが、6畳しかない部屋のいったいどこに隠れているのか見つ…

田舎のランチにご招待 〜オーベルジュ「薪の音」

真昼といえど太陽の位置が低い、晩秋の小春日和。見渡せば、里山は紅葉と黄葉が、斜めからの光に輝いていました。 ちょいとばかり早いけれど、今年も頑張った自分にご褒美と、車を飛ばしてのどかな中山間地の小さな集落にあるお店へランチに出かけました。ご…

一枚の絵、3年目に入りました

2021年11月から描き始めた油彩のモズの巣。ついに丸2年を過ぎて、3年目に入り、まだ描き続けています。 最初は1年あれば完成するだろうと、甘く考えていました。昨年、さすがにもう1年かければ大丈夫だろう。次は風景か、人物だって描きたいしー、と思ってい…