2023-01-01から1年間の記事一覧
久しぶりの雨。ぱらぱらと、止むことなく雨音が耳に入ってきます。緑が一気に鮮やかさを増し、紫陽花の季節がやってきました。 また季節はめぐりきて うすむらさきのほほえみはよみがえる ...と始まる、失恋の詩(金井直「あじさい」)があります。高校生の…
バラ、薔薇。華やかな花の代表格でしょうか。結婚式場だけでなく、小説、詩などさまざまな文学作品にも登場します。 「薔薇刑」という三島由紀夫の裸体を被写体にした、細江英公の写真集もありました。鍛え抜かれた男の筋肉。カメラを睨む三島の眼。 三島の…
読み始めるとまず、感情を排した簡潔な記述に引き込まれます。フランス語からの翻訳で読むわけですが、原文が持つ雰囲気と存在感が(おそらく)ストレートに伝わります。目の前の現実を映し出すことに徹し、感情の揺らぎによる曖昧さや、形容詞で飾ることを…
自分を探す18歳 みんなが自分を探す81歳 以前、SNSで見つけて思わす破顔した標語(?)です。80を過ぎてしっかりした高齢者はたくさんいらっしゃいますから、けしからん!と言えばその通りなのですが、18歳より81歳によほど近い自分としては、もう少し長生き…
ふう...娑婆に戻れる。 娑婆(しゃば)と書いて、もしかすると若い人は首を傾げるのでは...。ふと不安になりました。もともとは「この世」を指す仏教用語ですが、昔のやくざ映画では刑務所から出所したときの、お決まりの台詞によく使われていました。 娑婆…
命まで賭けた女(おなご)てこれかいな 無名の人の、知られざる1句。川柳の句集「有夫恋」が異例の大ベストセラーになった時実新子さんが、平成6(1994)年4月号の月刊誌「文藝春秋」に書いたエッセイで、取り上げている1句です。わたしは思わず笑ってしまい…
昨日は午後から、庭の芝生に目土(めつち)を入れて日が暮れました。目土というのは、夏にかけて芝生が葉を広げる前に、砂をまく作業です。「芽土」ともいい、前年伸びた茎が新たな砂に浅く埋まることで発芽が促され、毎年若くて密な状態を維持することがで…
チャットGPT。最近、やたらニュースで取り上げられるAI(人工知能)の会話機能で、アメリカの「OpenAI」という会社が開発して無償提供しています。論文やレポート、読書感想文など、チャットGPTに「書いて!」と頼めば即座に応えてくれるので、大学などでも…
50歳。半世紀も生きてきたのだから、波乱や悲しみ、喜びの経験はいくつも胸にしまってある。だれだってそうだろう。もう、冒険を試みるような年齢ではない。日々の小さな感情の起伏をつなげて年月が過ぎ、やがてそう遠くないいつか、老いた自分を静かに見つ…
昨年11月、落葉が終わるころから長い原稿の仕事が始まり、気づけば桜の開花宣言が聞こえ始めています。 本腰を入れて原稿に向かうと、24時間が仕事を中心に回り始めます。実際に文章を書いている時間は、1日8時間であったり、2時間であったり、全く書かない…
たまめし。 ちょっと上品ぶれば「卵かけご飯」。小皿にたまご割って、醤油入れて箸でかき回し、熱々のご飯にかけて、またかき回すあれです。 小学校2年だったか3年だったか、朝起きるとお腹が痛くて学校に行けず、母に近所の開業医に連れて行かれました。 顔…
昨年11月に長丁場覚悟の仕事を引き受けて、若いころのような馬力はないから、自分を追い込みすぎないようにやってきました。幸い、頭を掻きむしったり、ため息ついたりしながらも仕事を積み上げ、ようやく半ば近くまで辿りつきました。 自分を追い込み「すぎ…
幕末から明治維新までを舞台にした小説はたくさんあって、「幕末・維新物」と呼ぶカテゴリーを設けたいほどです。 その時代の人気ヒーローと言えば坂本龍馬か、西郷隆盛か。吉田松陰のような学者もいます。一方で幕府側には勝海舟、幕府海軍を率いて函館に籠…
1976年4月、わたしは早稲田大学教育学部英語英文学科に入学し、東京都大田区南馬込1丁目にある、老人夫婦宅の離れ6畳1Kに暮らし始めました。2023年の今から、遡ること47年前のことです。 下宿代は月15,000円。プラス電気、ガス代。仕送りは6万円なので、差し…
幕末という激動期。自らの信念を貫こうと時代のうねりに逆えば、人間一人など跡形もなく滅びて消えてしまう。そうして歴史の闇に消え去った人は、少なくなかったはずです。 「幕末遊撃隊」(池波正太郎、新潮文庫)は、若い剣士の生き様と死までを、一条の閃…
図書館の奥に眠っていたこの本を、これから読む人はそう多くないでしょう。何人か、せいぜい何十人かもしれません。既に絶版で、ネット検索するも古本はなかなかヒットせず。地元の図書館検索で探し、貸し出し可の1冊を見つけました。 「二人の炭焼、二人の…
長い原稿を書き始めると、いつ戻れるか分からない旅をしている気持ちになります。こう表すと少々気取っているようですが、実態は、旅程は描けても、すぐに資金が尽きて途中で呻吟する貧乏旅です。 資金が尽きたなら、稼ぐしかない。具体的には追加取材を繰り…
面白い小説は、例外なく脇役が魅力的です。悪者であれ善人であれ、主役を生かすのは脇役ですから、彼らがくっきり描かれているほど、その対比で主役が際立ちます。 題名を忘れてしまったのですが、北方謙三さんの時代小説にちょい役で出てくる研師がいます。…