ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

歩き続けるために、立ち止まる 〜「ベスト・エッセイ2020」日本文藝家協会編

二篇のエッセイが、妙に響きあって、心に残りました。どちらも、新聞に掲載された短い原稿です。 まず2020年5月25日、朝日新聞に掲載された青来有一さん(作家)の「暖簾は語る」。 年に数回は行くという、長崎県の温泉地の居酒屋の話です。 八十代の元気な…

切なくも胸にせまる.. まあ、確かに 〜「劇場」又吉直樹

又吉直樹さんの芥川賞受賞作「火花」には、次も読んでみようかと思わせる何かがありました。そして手に取ったのが「劇場」(新潮社)です。 帯のキャッチには「切なくも胸に迫る恋愛小説」。なるほど、ストレートにそのままの作品です。主人公の<僕>は、ア…

コラムの舞台裏 ぼた餅とお彼岸について

昨日は春分の日でした。仕事の一つである週1本の新聞1面コラムで、何を題材にするか迷ったとき、物色するのは<時事ネタ>か<季節ネタ>です。新型コロナや政治などの社会状況は時事ネタ。春分の日は、季節ネタですね。 昼が長くなって桜の開花が近づくころ…

古本屋さん巡りの楽しさ満載 〜「東京古書店グラフィティ」池谷伊佐夫

東京の古書店をすみからすみまで追究する究極のマニュアル本ついに完成! と、帯にうたわれているのが「東京古書店グラフィティ」(池谷伊佐夫、東京書籍、絶版)です。1996年に出た本なので、すでに四半世紀・25年前。今も、古書店巡りのガイドブックになる…

モナリザを忘れて背景を見る 〜「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」岩波文庫

当面の課題や締め切りをクリアして、ふっと息をついてビールを飲みながら、最近ついついハマるのが<戦国ixa>というオンラインゲームです。負けると悔しい!...ので、強くなりたい。 そこにはクリック2、3回で簡単に課金、戦力強化できてしまう、ネット社会…

春 歌書よりも軍書にかなし

田舎住まいのうちには、2本の桜があります。1本は道路に面した狭い一角に植えた桜桃。サクランボがなるミザクラ(実桜)で、早咲きです。例年、彼岸のころ満開になるのですが、今年はやや早く、昨日あたりから開花し始めました。 いよいよ春本番は近い。 母…

特攻隊はこうだったのだろう 〜「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」吉田千亜

10年前の2011年3月11日、午後2時46分18.1秒。この瞬間を境に、多くの人生はそれ「以前」と「以後」に決定的に分断されました。被災者でないわたしでさえ、めまいのような横揺れに驚いたあの瞬間からの数日、数週間、そして1年は忘れられません。 東日本大震…

心の迷宮 血は流れて雪はやまない 〜「冷たい校舎の時は止まる」辻村深月

わたしはお化けとか超常現象の類を、これっぽっちも信じません。確かに時には面白いけれど、フィクションの世界。と、分かっているはずなのに、実は怖がりなのです。頭で考えていることに反して、体が反応してしまう。 「冷たい校舎の時は止まる」(辻村深月…

自然を知らないわたしたち 〜「邂逅の森」熊谷達也

もののけ姫の世界が蘇った ブログを通じた知人、レノンさんが「邂逅の森」(かいこうのもり 熊谷達也、文藝春秋)について記した文章を読み、思わず「なるほど」と膝を打つ思いでした。 もののけ姫かあ。この作品の世界観をこんなふうに分かりやすく言い切る…