ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

午後の紅茶とケーキ 〜「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

2019年の本屋大賞受賞後、ベストセラー・ベスト10入りの常連になっているのが「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ 文芸春秋)。安心して楽しめる、午後の紅茶とケーキのような味わいでした。もしも小説に、舌が痺れる酒のような刺激や、思わず目が覚め…

人みな修羅を秘める 〜「利休にたずねよ」山本兼一

秀吉が千利休に切腹を命じた史実は、もちろん知っていました。二人の関係についてはいろいろ書かれているし、私自身が持つ二人のイメージからさらに踏み出すために、新しく何かを読むつもりもありませんでした。なのにどうして、この本が手元にあるのか。 書…

哀しみは酒のように燃え 〜「喝采 水の上着」清水哲男

振り返ってみると、若いころはそれなりに恋もしました。本にも、人にも。なにしろ昔の話なので、恋した中にはもう本屋さんの店頭になく、注文しても絶版という本が珍しくありません。 「喝采 水の上着」(清水哲男、深夜叢書社、1974年)も、そんな1冊。詩集…

樹木希林さん 相変わらず強い 〜2019.5.28週間ランキング

先週2位、4位だった樹木希林さんの本が、今週はトップと6位を占め、これからもまだまだ勢いは続きそうです。新聞広告もけっこう出ていて、不況の出版業界にあって息の長いベストセラー、貴重なドル箱になっていることがうかがえます。 先週1位だった「おしり…

視線の向こうにあるもの 〜「松本潮里画集 迷想園」

5月というのに、連日の30度超えにぐったりして帰宅。昨夏の猛暑からいよいよおかしくなり始めたと思える地球環境は、いったいどうなっていくのだろう。身の丈を超えた壮大な心配をしつつ、暑さも、寒さもない、不思議な世界のページをめくりました。 「松本…

うまく悲しむこともできない 〜「星々たち」桜木紫乃

桜木紫乃という作家は、たくさんのことを書けそうで、いざ書こうとするとなかなか難しいですね。軽々しい言葉はたやすくはね返されるか、身をかわして受け流されてしまいそう。「星々たち」(実業之日本社文庫)もそんな一冊。 文庫本裏表紙の紹介文を借りれ…

1位はおしりたんていシリーズ 〜2019.5.21週間ランキング

トーハンが毎週発表する週間ベストセラーをチェックします。ベストセラーランキングは各種発表されていますが、ここはやはり出版社と全国の書店を結ぶトーハンにします。 トップは人気の児童書・おしりたんていシリーズの新作なんですね。ハウツーものでなか…

写実ということの底知れなさ 〜「どうせなにもみえない」諏訪敦絵画作品集

最初にお断りしておきます。「写実ということの底知れなさ」は、この作品集に寄稿した作家・古井由吉さんの文章のタイトルです。これから書こうとするのはもちろんまったく別物ですが、タイトルを付けるとしたらこれ以上の言葉が見つかりそうにありません。 …

小説家としての鎮魂 〜天童荒太「ムーンナイト・ダイバー」

この1冊、なぜ手に取ったかと言えば、文庫本の帯で3.11、あの東日本大震災に向かい合った作品だと知ったからです。天童荒太「ムーンナイト・ダイバー」(文春文庫、2019年。単行本は2016年刊)。そのままレジに向かったのは、平日午後の比較的閑散とした書店…

肩の力を抜いて召し上がれ 〜川上弘美「天頂より少し下って」

春まだ浅いその日、自分の内面を整理する言葉がちょいほしくなり、短編集が読みたくなって、帰宅途中に国道の陸橋そばにある書店に立ち寄りました。「天頂より少し下って」(川上弘美、小学館文庫)。 店内のタリーズコーヒーに入り、本日のコーヒー・ショー…

ブログを始めるにあたって..

本との最初の出会いを記憶に辿ると、曖昧な映像や感情の痕跡が漂う深海を、手探りする気分になります。触れてくるものはあるけれど、確かなものをつかみ取ることができません。 あきらめて少し水面に向かうと、ようやくしっかり輪郭を持った記憶がいくつも現…