振り返ってみると、若いころはそれなりに恋もしました。本にも、人にも。なにしろ昔の話なので、恋した中にはもう本屋さんの店頭になく、注文しても絶版という本が珍しくありません。
「喝采 水の上着」(清水哲男、深夜叢書社、1974年)も、そんな1冊。詩集です。刊行当時でも、この本が置いてある書店は少なかっただろうな。詩集の販路、流通は昔もいまも厳しくて、残念ながらごくごく限られています。
哀しみは
酒のように燃え
弓なりになって
音楽は残るだろう
(「光の中で」から)
うーん。10代から20代にかけて、すぐに傷つくセロリのような神経を束ねた未熟者には、こんなフレーズが刺さったのですね。あのとき、どんな悲しい音楽がひっそり胸の中で鳴ったのか、もう覚えてはいないけれど。
戦後の抒情詩といえば谷川俊太郎、大岡信、そして清水哲男さんが個人的なベスト・スリーです。そして詩集という「本」でいちばん愛着のあるのが、これです。学生時代に早稲田の古書店で、定価より高い値段で買いました。
私家版に近い清水さんの初期詩集「喝采」と「水の上着」を合わせたのが本書です。詩集としては珍しく1975年に再版されていて、私の手元にあるのは再版の方です。
紹介しておいて、本が手に入らないというのは申し訳ない限りですが、収められた作品を含む清水さんの多くの仕事は、思潮社の現代詩文庫で読めます。ただ現代詩文庫も最近は絶版が目立つようで残念です。