ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

お盆 あの世とこの世の通路について 〜雑文

うだる猛暑日から一転、今日は天気がぐずつきました。本の文字が読み辛くなり、ふと気づけば明かりが必要なたそがれどき。「あれ、もう...」と思ったのは、曇り空に加え、お盆が近づいて日没時間が早まっているからでしょう。 雨上がりに一斉に鳴き始めたセ…

斬るか斬られるか ん、女子高生が? 〜「武士道シックスティーン」誉田哲也

ただ相手を斬ることしか、今は考えていません。勝ち負け、でもなく、ただ斬るか、斬られるか....それが剣の道だと思っています。 これ、16歳の女子高生が剣道部顧問の先生に吐くセリフです。彼女がボロボロになるまで読み続けているのが新免武蔵(別名という…

29歳で逝った棋士 病と闘い、天才・羽生と競い 〜「聖(さとし)の青春」大崎善生

小説・つまりフィクションは、事実を超えることができないーと感じるのは、「聖の青春」(大崎善生、角川文庫 第13回新潮学芸賞受賞)のような作品を読んだときです。幼いころから重い腎臓病を宿命として背負いながら、棋士という厳しい勝負の世界に生き、最…

わがまま人間のコンサート嫌い 〜雑文

わたしは音楽が嫌いでありません。在宅の仕事なのでバックによく音量を絞り気味にしてクラシックやジャズを鳴らしますし、時には夜一人で、飲みながらお気に入りのCDに耳を傾けます。 しかし、困ったことにコンサートというやつがどうも苦手なのです。もっと…

パンデミック 希望と絶望とは 〜「首都感染」高嶋哲夫

中国で出現した新型インフルエンザウイルスが、パンデミックに至って世界中に感染が拡大。日本はどのようにして、何に生き残りをかけるのかー。「首都感染」(高嶋哲夫、講談社文庫)は2010年に発表された、新型コロナを予言したかのようなクライシス=危機…

花火はなくても 天の川はある 〜「おくのほそ道」松尾芭蕉

必要に迫られ、芭蕉の「おくのほそ道」を再読しました。再読と言っても、前に読んだのがおよそ40年前となれば、ぼぼ初読のようなものです。部屋の古典を集めた一角から引っ張り出してきたのは、昭和53年3月15日発行の講談社文庫(板坂元・白石悌三 校注・現…

新型コロナは何をあらわにしたのか 〜「疫病2020」門田隆将

本来なら日本はいまごろ、7月24日(金曜日)に開幕する東京五輪を目前にして、日に日に空気がたかぶっているはずでした。安倍政権にとっては、昨年の消費増税による景気低迷を一気に消し去る、盤石のロードマップでもありました。ところが2020年は日本にとっ…

生きる人間のリアル 驚くべき<真実> 〜「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ

「小説」と「文学」の違いは何なのでしょう。文学の1ジャンルが小説である、というのは分かりやすい解釈ですが、読者として作品に接する皮膚感覚で言えば、いい小説が必ずしも優れた文学ではありません。つい、おかしなことから書き始めてしまいました。 「…

七夕とアルゲリッチ 〜雑文

7月7日、七夕。外から聞こえてくるのは、激しい雨の音ばかり。九州では洪水被害が甚大で、織姫と彦星が出会う天の川は厚い雲の向こうです。七夕伝説は中国から伝わり、古代からあったお祭りでした。 だから7月7日というのは本来は旧暦の日付で、明治になって…

我、CDプレーヤーを物色す 〜雑文

引き受けた仕事が進まず、本が読めないと前回の稿でぼやいたばかりですが、今度はCDプレーヤーが壊れました。あー、最悪!。在宅ワークなので、昔買ったステレオ・コンポでCDを流しながら、胃袋には何杯もコーヒーを流し込みつつ、仕事をするのが習慣になっ…

タマネギを炒める 〜雑文

このところ、腰を据えて本を読む時間がありません。ある長い原稿のアンカー(最終的な編集、点検役)を頼まれて、片手間ではできないと分かりながら断りきれなかったのです。原稿用紙に換算すると300枚ほど。やはり一筋縄ではいきません。まだ1、2週間はかか…

雨を見上げてそのまま 唇が欲し 〜「サラダ記念日」俵万智

おいおい、なんで今ごろ「サラダ記念日」(俵万智、河出書房新社)なんだよ。と、わたしがこの稿のタイトルを見たら思うでしょう。いや、若い世代はそもそもこの本を知らなくて、新作のライトな恋愛小説か何かだと思うのかも。 小説ではなくて、歌集です。舞…

ホタル狩り 〜雑文

梅雨に入り、ホタルが舞い始めました。さすがに近所で見ることができる人はごく少ないにしても、探せば結構あちこちに観賞スポットがあって、わたしが暮らす街は車で30分も走れば行けるのです。東京、大阪のような都市部にお住まいの方は、そうもいかないの…

老いを描いて容赦なく 〜「家族じまい」桜木紫乃

<老い>や<死>と、どのように向き合うか。そもそも、人は覚悟を決めてから老いるものではなく、生きることに追われているうち、気づいた時には既に、老いに伴うさまざまな現実が降りかかっているのでしょう。 普通の人間にとって、飛び抜けた成功や栄光は…

静かに読み浸る 修羅 〜「あちらにいる鬼」井上荒野

本猿さんのブログ「書に耽る猿たち」に「しとしとと雨の降る午後に、雨音だけが響く中、静かに読み浸っていたいような作品」と紹介されているのを読み、無性に読みたくなった小説です。そして「あちらにいる鬼」(井上荒野、朝日新聞出版)は、まさにそんな…

<断捨離>を試みた<真逆>の結果について 〜雑文

<断捨離>は、比較的新しい言葉ですが、あらゆる年代の人にすっかり定着した感があります。 <真逆=まぎゃく=>という新語も、20年ほど前から若い世代を中心に使われ続けているようです。実はこの言いよう、わたしのような「気持ちだけ若い」人間には、い…

巨匠たちのつぶやき、そして肉声 〜「世界素描体系」I〜Ⅳ、別巻1、2

素描、つまりデッサン(フランス語)、ドローイング(英語)の魅力は何かと自問すれば、「画家の素顔に出会えること」だと思います。油彩の完成作品は、画面の四隅にまで画家の神経が行き届き、満を持して発表する<華やかな舞台>のようなもの。 対して素描…

文化を担った人々の熱い舞台裏 〜「神楽坂ホン書き旅館」黒川鍾信

ひと昔前まで、脚本家や小説家はどんなところで、どんなふうにして原稿を書いたのでしょうか。「神楽坂ホン書き旅館」(黒川鍾信、NHK出版)を再読して、不覚にもところどころ涙しそうになりました。昭和の物書きたちと、彼らを支えた無名の人びとの息遣いが…

朝に人を殺し 昼に子を助ける 〜「異端者の快楽」見城徹

幻冬舎代表取締役社長、そしてカリスマ編集者である見城徹さんが、対談を通して自らを語っているのが「異端者の快楽」(幻冬舎文庫)です。見城徹という一人の編集者・人間がくっきり浮かび上がるとともに、対談相手の中上健次、石原慎太郎、さだまさしさん…

ときに劇薬 使用法にご注意を 〜「逃亡者」中村文則

仕事が首尾よく終わって、仲間と握手。仲間は魅力的な女性で、顔には出さないけれど本当は強く惹かれています。ごく短い時間重なり合った、彼女の冷たい皮膚の感触、薄い掌と指の儚げな、しかし芯の通った強さと体温に触れ、彼女という<特別な存在>が掌か…

レース編みと、一人称小説について 〜雑文

「今週は絵よりも読書をメーンにしよう!」と思っていたのですが、いやはや、やはりスケッチブックを開いて鉛筆でコツコツやる時間が多くなっています。鉛筆でレース編みを描いてみよう、などと考えたのが(いま思えば大それた考え!)そもそものまちがいで…

<スマホ>というツール そして手 〜雑文

この1週間、本(「逃亡者」中村文則)のページをめくるより、はるかに多くの時間、鉛筆を持ってスケッチブックを開いていました。「逃亡者」については、とても面白いので読了後に書きます。さすが中村さん、という感じで読み進めています。 デッサンは、<…

深すぎる断絶 そして再生の物語 〜「流浪の月」凪良ゆう

読み終えて浮かんだのが「ずっしり残る、不思議な作品」という、何を伝えたいのか自分でもよく分からない言葉でした。「流浪の月」(凪良ゆう、東京創元社)は2020年の本屋大賞受賞作。本屋大賞は読者の期待をほぼ裏切らないので、実は芥川賞や直木賞より楽…

心に持ち帰る 本の言葉 〜 「日本の文学論」竹西寛子

読み終えていない本について書くのはどうなのかーと思いますが、幾つもはっとさせられる文章が出てきて、しかも途中から飲みながら読んでいるので、気づけばほろ酔い状態、となると読む集中力は途切れがちで、むしろ気ままに自分の思いを書く方が適当なのだ…

一気読みのハードボイルド 〜「蒼の悔恨」「青の懺悔」堂場瞬一

<ハードボイルド小説>に明確な定義があるのかどうか知りませんが、個人的には「生き方に極めて強いこだわりを持つ男が主人公で、試練を乗り越えた後に深い心の傷を負っても、生き方を変えることができない。その事実を最後は淡々と記述した物語」というこ…

絵について 新しい寄り道 〜雑文

4月に入ってから、自由に使える時間は本より絵の方に傾いています。現代日本の写実絵画について、このブログでも2回取り上げてきました。昨年、諏訪敦さんの絵画作品集「どうせ何もみえない」(求龍堂)について書き、今月に入って別冊太陽「写実絵画の新…

ふつうを書いて、味わいあり 〜「田舎の紳士服店のモデルの妻」宮下奈都

数日前に手をつけたわが部屋の本の整理、まだ終わりそうにありません。とりあえず四方の壁面を複数エリアに区切り、1エリア限定で進めています。もし該当エリアの本を、全く別エリアに存在する(はずの)本と一緒にしたいと思っても、涙を飲んで無視。処分…

切なく悲しい ハッピーエンド 〜「金魚姫」荻原浩

ハッピーエンドは心軽くなるけれど、たいていすぐに忘れる。悲劇だったら、心に刺さるけれど辛い。「金魚姫」(荻原浩 角川文庫)は、そのどちらでもなく、どちらでもあるような、絶妙のストーリーでため息つかせてくれます。 恋人にふられ、ブラック企業に…

心地よいウイット 〜「ニューヨーカー・ノンフィクション」常盤新平 編・訳

最近は<巣ごもり>気味なので、このさい難破船のごとき部屋の本を整理しようと思い立ったのが昨日。開始15分で早くもどう収拾をつけるか茫然とし始め、手にとった昔の本をちょっと開いてみたら、現実逃避という悪癖が即座に作動して読みふけってしまいまし…

大きな試練と小さな幸せ 新型コロナ 〜雑文

土曜日は本来なら大型書店に出かけ、本を物色してから、店内にあるタリーズコーヒーでのんびりなのですが、新型コロナ蔓延とともにそんな生活習慣を失ってしまいました。ただ、できる範囲での<巣ごもり>を心がけても100パーセントの<引きこもり>は不可能…