ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

降臨するのは神か悪魔か 〜「生成AIで世界はこう変わる」今井翔太

 2022年秋にChatGTPが現れたことは、個人的にインパクトのある出来事でした。ちょっと試してみようと、ChatGTPにアクセスして詩やラブレターの代筆をリクエスト。そして生成AI(クリエイティブな人工知能)が創造した<作品>に、少なからず驚きと驚異を感じたのです。

 詩に関して、実は唸りました。あるテーマを設定して「古風な詩」と「現代的な詩」という要望を与えると、ChatGTPは近代詩と現代詩の特徴を踏まえてしっかり書き分け、それぞれになかなか読ませる言葉を綴りました。

 一方、恋文代筆はまだ人工臭のある無機質な文章でしたが、これはわたしの要求が大雑把すぎて、「読書サークルの女性へのラブレター」程度だったから。もし、彼女の個性を具体的に細かく提示し、生成を繰り返して文章を磨けば、心に響く恋文になったかもしれません。

 ChatGTPは現在、医師国家試験や司法試験に合格するそうです。一人の人間で、両方の資格を持つ人をわたしは知りません。しかも論文を著述し、詩や小説も書ける。はあ...です。

 言語の分野だけでなく、画像生成AIや音声生成AIもあり、クリエーターの世界を脅かしています。苦労してスキル習得をしたイラストレーターでなくても、小学生が「白雪姫が森で楽しそうに歌う絵」とお願いすれば、画像生成AIはクオリティの高い画像を数十秒後に描き終わるのです。

 (わたしが「白雪姫が森で楽しそうに歌う絵」と要求し、画像生成AIの一つStable Diffusionが描いた白雪姫。次に「白雪姫」を「かぐや姫」に置き換えてリクエストすると、時代考証を踏まえたと思われる衣装、背景も含めて和風に....。大きな袖部分の光の生かし方がうまいしw)

 「そうは言っても、やはり生身の人間の創作とは何か決定的に異なるだろう」と、つい楽観的に考えがちですが、プロであるほど生成AIに脅威を感じるはずです。

 アート関連に限らず、論文作成、会社の経営戦略など、高度な知的分野のビジネスに関して、生成AIが人に取って代わる可能性が強く出てきたわけです。かつてのAIは、蓄積した膨大な情報から、求めに応じて既存の最適解を提示しました。生成AIは膨大な情報を組み合わせ、未知の最適解を示すことができるのです。

 どう見ても、わたしよりよほど賢く独創的で、圧倒的に仕事が早い。しかし、元を正せば単なる自動計算機・電卓(旧石器時代のコンピューター)が、なぜここまで急激に進化したのか?。背後のプロセスが素人の想像力を超えています。

 今後、生成AIが直接、間接的に社会にもたらすであろう大きな影響。正体がつかめないままでは<気持ち悪い>し、負の可能性についても知りたい。

 文系人間のそんな素朴な疑問に、なんとか理解できる範囲で答えてくれたのが「生成AIで世界はこう変わる」(今井翔太、SB新書)でした。

 さてこの稿、ボリューム的にここまでの前置きが本論になってしまいましたが、もうすぐ終わり。結論から述べると、わたしはこの本を読んで少しすっきりしました。

 生成AIとはどんな仕組みか、生成AIがさらに加速度的に賢くなっていく「ディープラーニング」とはいかなる構造の実践なのか。最低限の概念だけは、理解できた。と思うw。

 ちなみに著者は、1994年生まれで東大の研究室に所属する気鋭です。生成AIの最先端の研究者たち(=人間)の頭脳の、なんとまあすごいことか。医学を始め学術の最先端はどれも同じですが、現代は先を目指すことが哲学や倫理学と重ならざるを得ない。

 その「現代」もまた、スピードを上げて過去になっていきます。

 ごく近い未来でさえどうなるか、明るさに比例して、一見明るい未来であるほど、闇が深くなりそう...。訳も分からず社会の変化に振り回されるのは、どうにも居心地が良くないという人なら、一読の価値はある1冊だと思います。

              

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