ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

できること、できないこと

くーが逝って以来、どうにも本を読む気になれません。本に限らず、活字全般を自分の中に摂り入れる、あるいは発する(何かを書く)ことが億劫になったままです。言葉というやつはときに、何とも重い。 このブログのタイトルは「ことばを食する」ですが、食欲…

人は愛した者のためにしか... 〜「ハラスのいた日々」中野孝次

昭和62(1987)年にベストセラーになった「ハラスのいた日々」(中野孝次、文藝春秋)を、30数年ぶりに再読しました。中野さんはドイツ文学者でエッセイスト、小説家で2004年没。 ハラスと名付けた柴犬と暮らした13年間を綴ったこの作品は、刊行翌年に新田次…

犬は犬、我は我にて

犬は犬、我は我にて果つべきを命触(ふ)りつつ睦ぶかなしさ 平岩米吉 2020年11月19日 木曜 晴夜雨。未明、くー永眠。朝、小屋の中で冷たくなっていた。16歳5カ月。 火葬。骨になって、いまピアノの上にいる。 「ハラスのいた日々」再読。

沈黙に耳を傾ける 〜「驚異の静物画 ホキ美術館コレクション」芸術新聞社

ホキ美術館の所蔵作品を初めとした現代日本の写実絵画が、なぜこれほど心に語りかけてくるのか。この1年近く、わたしはそのことについて考え続けていて、実は考えること自体を楽しんでもいます。 抽象や半具象ではなく、コテコテの写実にどうして<新しさ>…

じいじ馬鹿のクリスマス・プレゼント

わが子かわいさに、つい甘やかしてしまう。欠点が目に入らない。これを「親馬鹿」と言います。 ややもすると、親よりも甘くなるのが祖父母です。基本的に養育の責任がないので、自己反省することなくただ可愛がることができます。こうして、わたしのような「…

歴史を通しての、日本論 〜「絶対に挫折しない日本史」古市憲寿

書店の平積み本を眺めていて、タイトルにひかれ、しかも著者は小説も書く気鋭の社会学者(歴史学者ではない)ということで手にしたのが「絶対に挫折しない日本史」(古市憲寿、新潮新書)です。 幸い、挫折せずにすみました^^;。歴史を通しての、ユニーク…

この国の未来が不安になる 〜「高校生ワーキングプア 見えない貧困の真実」NHKスペシャル取材班

高校生がスマホを持っているから、化粧をして笑っているから、貧しくはないー。少なくとも、貧しくは見えない。しかし、本当はどうなのか。 <貧困>に結び付けて思い浮かぶイメージとは、どんなものでしょうか。ごみ山を漁って生活するアジアのどこかの国の…

彼は立ち止まらない 〜「久遠」など刑事・鳴沢了シリーズ 堂場瞬一

最近<リーダビリティ readability>という言葉を知りました。「先へ先へと読ませる力」という意味でしょうか。あの作家はリーダビリティが高い、といった使い方をするようです。 いい小説の条件を考えるなら、結局は「面白いか否か」というシンプルな出発点…