ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

この国の未来が不安になる 〜「高校生ワーキングプア 見えない貧困の真実」NHKスペシャル取材班

 高校生がスマホを持っているから、化粧をして笑っているから、貧しくはないー。少なくとも、貧しくは見えない。しかし、本当はどうなのか。

 <貧困>に結び付けて思い浮かぶイメージとは、どんなものでしょうか。ごみ山を漁って生活するアジアのどこかの国の子供たちか、圧政に苦しむ北朝鮮の農民か、世代によっては戦後の窮乏期を生き抜いた体験か。

 ところが現代日本で進行する貧困問題を正しく認識しようとするなら、こうしたイメージを出発点にするほど、核心に近づけないのかもしれません。現代の日本社会(一人一人の日常の集積)における貧困問題をいくら突き詰めても、いま列挙したイメージに収束するはずがなく、また比較することに大きな意味はないからです。

 「高校生ワーキングプア 見えない貧困の真実」(NHKスペシャル取材班、新潮文庫)を読んでまず思ったのは、<貧困>という言葉を現代に合わせて捉え直さなければいけないということでした。

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 NHKで放送されたドキュメンタリーをベースにした書籍化です。数人の高校生たちの日常を丹念に追い、追いかけながら取材班は考え、共に喜び、しばしば心配します。序章を含め6章の構成。

 「序章 働かなければ学べない」「1章 家計のために働く高校生たち」「2章 奨学金という借金を背負って進学する高校生たち」「3章 アルバイトで家計を支える高校生たち」「4章 『子供の貧困』最前線を追う」「5章 『見えない貧困』を可視化する」

 貧しいことを、ひけらかす人はいません。むしろ子供ほど家庭の貧困を隠そうとします。登場する高校生たちは、くだけた言い方をすれば「本当にいい子たちばかり」で、親を助けようと働き、勉強し、進学するために総額で数百万円になる奨学金(つまり借金)を申し込みます。

 そして取り上げられた高校生たちが決して珍しい例ではないこと、たくさん存在することが、複数のデータその他で示されます。

 かつて、高度経済成長からバブルに向かうころ、定番のようにあった論調が「モノの豊さはあっても、心の豊さがない」でした。その後の社会変化で、子供の将来の夢は「正社員」という笑えないジョークが流行り、今や生活基盤さえ崩れて「貧の連鎖」が言われます。

 現代の貧困に対して、NHKスペシャルは「老後破産」など10数年前から様々に問題提起してきたパイオニアです。貧困の広がりは、分断の進行でもありました。その視点に対して、わたしは素直にすごいと思います。