書店の平積み本を眺めていて、タイトルにひかれ、しかも著者は小説も書く気鋭の社会学者(歴史学者ではない)ということで手にしたのが「絶対に挫折しない日本史」(古市憲寿、新潮新書)です。
幸い、挫折せずにすみました^^;。歴史を通しての、ユニークな日本論にもなっています。
どんな本なのかは、著者の「まえがき」から引用するのが一番でしょう。
できるだけ固有名詞に頼らずに、引いた視点で、巨視的に日本の歴史を把握したい。まるで神様のような目線で、この国の歴史を描いてみたいと思った。
教科書的な細部を無視し、『一つの視点から』日本の成り立ち以降、現在までのうねりを大きなストーリーとして描き出してあります。これ、とても重要なことだと思う。
知人に一流の進学校、国立大学を卒業した女性がいます。ところが、話をしていて驚くのは、ときに中学校の教科書レベルの歴史知識さえ欠けていことです。彼女いわく。
「用語や年代、人名とか記憶するのはそれなりに得意だったけれど、単なる記憶は受験が済んだら大半は消えてしまったわ」
歴史が面白いか、面白くないか、記憶に残るかどうかは、教科書が押し付けてくる膨大な知識の背後に、書かれていない血の通ったストーリー(ドラマ)を読み取れるか否かにかかっていると思います。
この本は、教科書に書かれていないストーリーだけを抽出しようとしたーと言えそうです。ストーリーの土台になる最新の歴史学の知見に関しては、きめ細かく<注>で出典が示されでいます。
記述の流れも、現代に照らし合わせて分かりやすい。例えば天皇を頂点とした律令国家が完成した奈良時代。
なぜこんな「強い国」が生まれたのだろうか。それは現代の北朝鮮問題を考えてみれば分かる。国がまとまるのは外敵ができたときだ。北朝鮮がミサイルで危機を煽ると、タカ派の政治家が国力の強化を謳う。似たような状況が古代でも起きていた。....
「通史編」「テーマ史編」の2部構成。1部・通史は『ドラえもん のび太の日本誕生』を前振りに、46億年前の地球の歴史から始まり、最後は令和の先の未来予想にまで突っ走ります。2部はコメ、神話、戦争、家族などのテーマごとに、各通史が記述されます。
さて、この稿の始めに、本書について『一つの視点から』の歴史としました。歴史とは常に、個人や国家が夥しい事実の集積=ビックデータならぬビックファクト=から恣意的な一部を拾い上げ、解釈を加えて作り上げるものです。
一つのリンゴを100人の子供が描けば、100通りのリンゴが生まれます。同じように100人が日本史を書けば100通りの歴史が出来上がるわけですが、そもそも学問がそんなことでいいのか?。人間の恣意を排した「ありのままの歴史」とは可能なのか。その辺りについても、最後の章で楽しく考察してあります。
蛇足を一つ。本の帯には「受験、就職試験にも役立つ 画期的日本史入門!」とあります。う〜ん、さて。役立つにしても「即効性」はないような....。