ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

美味しさについて書かれた 美味しい1冊 〜「美味礼讃」海老沢泰久

もし、「美味しいこと」に関する1番のお勧め本を問われたら、ずいぶん迷います。味の好みが年齢と共に変わるのは確かで、最近は和食や、質素な精進料理の淡白に奥深さを感じます。 一方で、1皿のために時間と素材を贅沢に使うフランス料理に感服する心も未だ…

「吉田調書」をめぐって 〜「朝日新聞政治部」鮫島浩

本についてブログを書くとき、肯定的な心の発露による文章だけを書きたいと思っています。要は、心が動かなかった本、否定的な思いを抱いたものは取り上げない。作者が精魂傾けた仕事に、ちっぽけな個人の主観で異を唱えたくないからです。 「朝日新聞政治部…

くーの文章講座? いや酔ったついでの戯言

このブログをよく訪ねてもらうともこ (id:jlk415)さんから前回、こんなコメントを頂きました。 「美しい」「感動した」などの言葉を使わずにどう表したらいいものか、考えがなかなか浮かばない。 その思い、よく分かります。わたしがいつも気にかけているこ…

一語多義の豊かさについて愚考する 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その9(番外編)

書庫であり、書斎であり、アトリエでもあり、見方を変えれば整理不可能なあきれた物置、そして夜毎独り呑みの空間である6畳の部屋。そこにある机上、および手が届く範囲には常時4、50冊の本が積まれているか並んでいます。未読のいわゆる<積読本>がある一…

質素な中の 限りない豊かさ 〜「土を喰う日々」水上勉

よく行く書店に映画やテレビドラマの原作になった、あるいは近々公開予定の映画の原作を集めたコーナーがあります。眺めて「なるほど」とか「へえー、これを映像化?」とか。もちろん「どんな小説なんだろう」と、想像が広がる未読作が圧倒的に多いのも楽し…

大災害と小さな新聞社の苦闘 〜「6枚の壁新聞」石巻日日新聞社編

宮城県北東部の石巻市は、太平洋に面した人口13万6千人の市です。沿岸部は漁業や養殖、水産加工業が盛んで、北部にかけてリアス式海岸の複雑な地形が続いています。 その石巻市で1912年(大正元年)に創刊され、石巻と東松島市、女川町をエリアに読まれてい…

美味しいと、言う必要のないご飯が美味しい 〜「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子

近年、芥川賞受賞作と聞くと無意識のうちに身構える部分があります。というのも、普通の生活感覚からズレた(いい意味で)斬新な作風が多いから。文学に限らず、芸術は過去にない新しい領域を世界に付け加えようと作者が格闘するものですから、純文学を標榜…