ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

美術書・戯曲・批評

フィレンツェに行きたくなった 〜「イタリア・ルネサンス」池上英洋

レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロを代表格に、数々の天才や万能人を生み出したルネサンスとはなにだったのか。「イタリア・ルネサンス 古典復興の萌芽から終焉まで」(池上英洋、創元社)はその疑問に対し、明確な道筋をつけて読者を案内し、答えに導…

2025年四季の絵日誌、ようやく夏に

ずいぶん秋らしくなりました。昨年より1週間遅れでキンモクセイが咲き始め、香りが漂ってきます。そろそろ夜の焼酎もロックかお湯わりか迷う。この悩ましさも、わたしの例年の風物詩?かな。 2025年の年明け、花盛りだったのはサザンカでした。うちの庭には…

補遺 〜ロンドンぶらある記・最終回

8月下旬から9月初旬にかけてのロンドン滞在は、漠然とだけれど、どこか深いところで自分を変えてくれた気がします。たくさんの絵を見たからとか、観光名所を巡ったからではなく、短期間とはいえ日常生活に身を置き、雑多な現実を受け入れて対応した経験が、…

読書する女は危険である 〜ロンドンぶらある記⑩

ロンドンのガイドブックによると、ナショナルギャラリーから南に延びる大通りを数分歩くと、右に折れる小さな横丁があります。それがセシル・コート通り。古書店が軒を連ね、「ハリーポッター」に出てくる<ダイアゴン横丁>のモデルなんだとか。 「ハリーポ…

描かれた女性2人になにを見るか 〜ロンドンぶらある記⑧

ドイツ文学者の中野京子さんが、独特の視点で名画を解説した「怖い絵」という本がシリーズ化(角川文庫)されています。わたしは未読ですが、「怖い絵 泣く女篇」を書店で手に取ったことがありました。カバーに使われている絵が印象的だったで、その章だけざ…

英国にも新宿にもひまわりは咲き 〜ロンドンぶらある記⑦

ナショナル・ギャラリーを訪れる人で、この絵が目当てという人はかなりいると思います。フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」。 環境保護団体の青年というか少年たちが、この作品にトマトスープを投げつけたのは2022年。同じ団体はその前、ルーブル美…

ネーデルランドの絵描きたち 〜ロンドンぶらある記⑥

ロンドンのナショナル・ギャラリーは、入場口のあるセインズベリー館と、空中の通路でつながった本館があります。セインズベリー館は西暦1500年までの絵画、本館は16世紀以降という作品構成で展示されています。 いったん入ると、展示室は前後左右に延々と連…

聖アンナの微笑みに魅せられ 〜ロンドンぶらある記⑤

正面に古代ギリシャを模したコリント式円柱の列。ロンドンのナショナル・ギャラリーは、トラファルガー広場を前庭のように持つ、古典主義の壮大な建築です。 大英博物館が世界の文化財の殿堂なら、こちらはパリのルーブル美術館に迫る絵画の宝庫。13世紀以降…

大英博物館で広重に出会う 〜ロンドンぶらある記④

浮世絵で一番好きな作品を問われたら、幾つか思い浮かんで困ってしまうけれど、その「幾つか」の中に確実に入るのが広重の「蒲原」です。正確には、東海道五十三次之内十六「蒲原 夜之雪」(かんばら よるのゆき)。 風のない夜、しんしんと降り積もる雪。遠…

フェルメールの黄色

フェルメールの絵を見るほど、心に広がるのは静謐です。 これほど慎ましやかでありながら、色彩の力を画布に定着した人はいないと思います。情熱的で荒々しく、構図も色も雄弁な画家はたくさんいます。フェルメールはわたしにとって、その対極。日常を描いて…

鉛筆を削る

5月の大型連休明けに、鉛筆10数本をカッターナイフで削りました。熱いコーヒーを横に置き、削り始めると、いつの間にか鉛筆の先に神経を集中して周囲が見えなくなります。 10Bや4Bといった濃い鉛筆は減りが早く、使用頻度の割にずいぶん短くなっています。9H…

写実絵画はなにを語るか 〜画集「増補|磯江毅|写実考」

高齢者の仲間入りをしたわたしが、趣味で油絵を始めたのは、パンデミックのコロナ禍に世界が震撼した2020年春でした。気づけば5年になります。この間、仕上げた油彩は数枚、鉛筆などの素描(デッサンやクロッキー)20点くらいか。どれも「これ以上続けてもき…

さざんか さざんか さいたみち 〜冬の童謡と絵 

〜 さざんか さざんか さいたみち たきびだ たきびだ おちばたき 「あたろうか」「あたろうよ」 きたかぜ ぴいぷう ふいている この童謡の題名、すぐに浮かんだ人は、かなり年配の方でしょうか。ん、題名、なんだっけ..と、遠くを見る目になった方もきっとい…

能登の絵師 震災から1年の大晦日

あと数時間で、2025年を迎えます。1年前の元旦夕方、能登半島地震が起きました。わたしが暮らす地は能登に近く、震度5強。初めて体験する強い揺れが長く続き、直後に津波警報が出ました。自宅は海岸線から4、5キロ離れていますが、近くを川が流れ、海抜は1メ…

絵に夢を託した画家たち 〜「近代絵画史」高階秀爾

年末になり、たまたま見ていたテレビ番組で、指揮者の小澤征爾さん、詩人の谷川俊太郎さんら2024年に亡くなった著名人を取り上げて1年を振り返っていました。個人的には、美術史家で評論家の高階秀爾さんも忘れられません。10月17日、92歳の生涯を閉じられま…

「レダと白鳥」〜レオナルド・ダ・ヴィンチの失われた傑作

空き部屋になった2階の子供部屋に、春から画材を運び上げ、画集など絵画関連の書籍もすべて移してアトリエにしました。いま、とてもお気に入りの空間です。 絵筆を持つと集中力が必要で、30分前後描くと限界に達するので、中入りの休憩を3、40分。その繰り返…

一枚の絵、3年目に入りました

2021年11月から描き始めた油彩のモズの巣。ついに丸2年を過ぎて、3年目に入り、まだ描き続けています。 最初は1年あれば完成するだろうと、甘く考えていました。昨年、さすがにもう1年かければ大丈夫だろう。次は風景か、人物だって描きたいしー、と思ってい…

「旅と郷愁の風景」を見る 〜川瀬巴水展・石川県立美術館

車のアクセル踏んで小さな旅をして、金沢駅近くのホテルに投宿。深夜まで、腐れ縁の友と飲み、ホテルで目が覚めたら小雨模様でした。 チェックアウトを済ませ、加賀百万石の名園・兼六園に隣接する歴史文化施設エリアへ。駐車場に入れたころちょうど雨が上が…

長谷川等伯ではなく浮世絵を見る 〜石川県立七尾美術館

富山県氷見市から日本海に面した山中の高速道路を走り、能登半島の中ほどに位置する石川県七尾市へ向かいました。8月末だというのに、車の温度計は35度。 歴史的に七尾市は海運で栄え、戦国期には背後に迫る半島の丘陵に室町幕府の有力大名で管領・畠山一族…

もがいたって、出口はない 〜「椅子」ウジェーヌ・イヨネスコ

わたしは本を処分するのが極めて苦手です。何年かに一度、意を決して2、300冊程度は廃品回収に出すのですが、生まれる空き空間は微々たるもので、たちまち新たな本で溢れてしまいます。 狭い部屋でまともな身動きもままならず、気を許せば積み上げた本がいつ…

言葉の美味しさ 〜「小説の言葉尻をとらえてみた」飯間浩明

「これは面白い○○だなー」 読みながら何度も心の中でつぶやき、つぶやきながらもどかしかったのは、「○○」に当てはめるべき言葉が見つからないことでした。評論、随筆、エッセー?。どれもぴったりきません。小説を取り上げているけれど書評とは言えないし。…

フィレンツェの500年前の空気を吸う 〜「ルネサンス画人伝」ヴァザーリ

ジョルジュ・ヴァザーリ(1511ー1574年)の名前にピンとくる人は、ごく限られていると思います。イタリアの画家、建築家。芸術家としてより、その名がルネサンス期の美術を研究する人たちにとって必須であるのは、彼が「画家、彫刻家、建築家列伝」を書き残…

ホキ美術館について

4日間にわたり、仕事も放り出して、愛知から東京へと回ってきました。そして帰り着くと、<国境の長いトンネルを抜けると雪国であった>...とまでは言わないけれど、北陸は冷たい雨が降る冬の始まりに変わっていました。 必要があっての遠出。そこに組み込ん…

車飛ばして美術展へ... 林忠正のこと

昼から天気が崩れるという予報を見て、朝から隣の市にある美術館へ車を走らせました。車の運転は、やはり青空の下がいい。「高岡で考える西洋美術ー<ここ>と<遠く>が触れるとき」(国立西洋美術館、高岡市美術館など主催)という企画展が気になっていて…

中村真一郎 〜作家つれづれ・その3

最近、中村真一郎さん(1918〜1997年)の本を引っ張り出してきて、拾い読みの再読をしています。今はもう「それはだれ?」、という人が多いかもしれません。 小説家、仏文学者。文学評論も書き、若いころは詩人として知られ、またラジオドラマの脚本なども書…

モナリザを忘れて背景を見る 〜「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」岩波文庫

当面の課題や締め切りをクリアして、ふっと息をついてビールを飲みながら、最近ついついハマるのが<戦国ixa>というオンラインゲームです。負けると悔しい!...ので、強くなりたい。 そこにはクリック2、3回で簡単に課金、戦力強化できてしまう、ネット社会…

ひそかに咲いた桜のような 〜「哀愁の音色」竹西寛子

雪深い地に住んでいるとはいえ、立春を過ぎれば新しく降り積もった雪も数日のうちに消えていきます。この時期からわたしの中では、春、満開の桜を待つ心が密かに芽吹きます。 圧倒されるような桜の名所はもちろんいいけれど、たまたま出合った公園に立つ1本…

半世紀前のドキュメンタリー・ドラマ 〜DVD「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」

レオナルド・ダ・ヴィンチというルネッサンス期の天才に、わたしは長く憧れと敬いの気持ちを持ち続けています。普段はそんなことを全く意識しませんが、自分がどうありたいかという基本のところで、無意識のうちにその生き方をお手本にしている部分が、間違…

<最後の浮世絵師>と出会った、遥かな記憶 〜「美術の窓」2016年12月号

2020年の個人的な大事件(?)の一つは、春から絵を描き始めたことです。以来気にとめるようになったのが、生活の友社から出ている「美術の窓」という月刊誌。とはいえ、1冊千数百円もするし、わざわざ買うこともないな....という程度なのですが。 たまたま…

クール・ジャパンの私的再発見 〜「陰翳礼讃」谷崎潤一郎

随筆という文学ジャンルの起源は、清少納言の「枕草子」だそうです。国語辞典によれば「自己の見聞・体験・感想などを、筆に任せて自由な形式で書いた文章」となります。 随想、エッセーとも言い、呼び名にこだわることに意味はない気もしますが、谷崎潤一郎…