ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

半世紀前のドキュメンタリー・ドラマ 〜DVD「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」

 レオナルド・ダ・ヴィンチというルネッサンス期の天才に、わたしは長く憧れと敬いの気持ちを持ち続けています。普段はそんなことを全く意識しませんが、自分がどうありたいかという基本のところで、無意識のうちにその生き方をお手本にしている部分が、間違いなくあります。

 「人生を左右した1冊」などというフレーズを、わたしはあまり信じません。ただ、大人になる準備期間に、心の土壌を耕す10代半ばまでの、なんとも痛ましく、出荷前のセロリのように新鮮で傷つきやすい時期に、突然焼印を押されるような経験を誰もがいくつか持っているのではないでしょうか。

 失恋であったり、スポーツにおける勝ち負けだったり、師や友人との、またある本との出会いであったり。

 たまたまわたしの場合、そんな経験の一つが1972年にNHKが日本語に吹き替えて放送した「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」を見たことでした。生誕から死までの人間像をドラマ化しながら、当時の最先端の研究成果を語り手が解説する全5話のドキュメンタリー・ドラマでした。名優フィリップ・ルロワがレオナルドを演じ、制作はイタリア放送協会。

 高校1年生だったわたしは毎夜、食い入るように見ました。録画機器なんてない、1回こっきりの時代でした。

 キーボードで「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」とタイプし、検索したのは最近です。きっと、あの番組に心ふるわせたのは自分だけでないはず。ブログその他に何か書いている人がいるのではないか、何か情報はないかと期待して。

 タイトルは「ダ・ヴィンチ ミステリアスな生涯」と変わっていますが、あの番組がDVD3枚組になって販売されていました。おお!。これは...。価格を見て一瞬怯みましたが、安く買えるところを検索して注文、無事に届きました。

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 半世紀近く前に、一度見ただけの映像。DVDを再生すると、色々なシーンや主題曲の旋律がまざまざとよみがえり、ポイントになる場面のせりふを事前に呟くことができたり、なんとまあ、人間の若いころの記憶力の凄いことか、改めて驚きました。

 さて、普通レオナルドと言えば「モナリザ」や「最後の晩餐」が思い浮かびます。しかし画家は、彼のごく1面に過ぎません。科学者、解剖学者、技術者、そして孤独な人間でした。

 生涯に5000枚の手記(メモや思考の断片、デッサンを記した紙篇)を残し、3000枚余りが現存しています。「絵画論」「哲学」「解剖学」など、本にまとめて出版する希望を持っていましたが、果たすことなく65歳で没しました。

 ルーブル美術館に「モナリザ」があるのは、レオナルドの没した地がイタリアではなくフランスだったからです。

 わたしは20代が終わろうとするころ、パリに行って丸1日、ルーブル美術館で過ごしたことがありました。目的の一つはもちろん「モナリザ」でしたが、レオナルド作品で衝撃を受けたのはむしろ「巌窟の聖母」です。当然ながら、画集の写真とは全く別物の圧倒的な存在感でした。

 帰路、手記の一部の画像をまとめた大型本を買いました。日本では岩波文庫から「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」上下巻(手記全体のごく一部の抄録の翻訳、デッサンはなし)が刊行されています。(もしかすると絶版かも)

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 ちなみにパリ滞在は1週間同じホテル、地下鉄と徒歩で市内を移動し、昼はカフェのパンと安ワイン、夜は主にスーパーで食べ物を買ってホテルの部屋で。

 1夜だけ遅くまで外で飲みましたが、残念ながら若い女性と知り合うこともなく、スペインから来た老夫婦と双方カタコトの英語で話しました。「ジャパン、トウキョー、それにコーベも知ってるぞ!」みたいな感じ。

 夫婦から、アイスクリームに赤ワインをなみなみかけて食べる(飲む?)やり方を教わりました。

 それよりレオナルドのこの番組、何度か再放送もされたようだから、だれか覚えている人はいないのかなあ。