ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

旧仮名遣いの魅力 この冬の課題^^ 〜「ヨオロツパの世紀末」吉田健一

 先日、地元の古本屋さんをのぞいて見つけ、つい買ってしまったのが「ヨオロツパの世紀末」(吉田健一、新潮社、1970年)です。タイトルからして「ヨーロッパ」ではなく「ヨオロツパ」。本のシンプルな装丁、古びた佇まいも含めてなんだかカッコいいというか、そそられたのです。

 実はこの本、わたしが学生だった昔、早稲田の古本屋街でちらちら目にしながら買わずに終わった1冊です。野間文芸賞受賞作であり、仲間内でも評価の高い(生意気にも!)評論でした。

 「○○はね、こう書いているんだよ」と発言するとき、○○の部分に入る名前を外すと、内容はどうあれたちまちバカにされてしまうのですが、吉田健一なら、まあ大丈夫でした。ただ当時のわたしは吉田健一より欲しい本が常にあって、古本屋でうろうろする貧乏学生の選択の過程で「ヨオロツパの世紀末」は常に次点であり続けたのでした。

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 表紙をめくれば、目次などなし。いきなり旧仮名遣いの本文に出会い、ヨーロッパの世紀末芸術についての論考が始まります。まずは19世紀という対象を理解するための歴史考察から・・。まだ読了していません。というか、力ずくのエネルギーをすでに失った年寄りが短時間で立ち向かうのは無理なので、併読書としてのんびりこの冬の課題にしますww。

 それにしても、旧仮名遣いというのは、不思議な懐かしさと奥行きを感じます。

 この時代に科學は人間に與へる惨害などといふことはまだ豫想されてもゐなかつた。それで科學は何か全能のものになり、十八世紀に生じた進歩の観念に自然に一つの變化が起つた。

 1945年の終戦をもって、旧仮名遣いは教育の場からも社会からも姿を消しましたが、一部の作家は旧仮名遣いにこだわりました。三島由紀夫などもそうで、文庫は新仮名遣いに改められていますが、最後まで旧仮名遣いにこだわった作家です。三島全集は原文に忠実に、全て旧仮名遣いになっています。

 世紀末から20世紀の初めはいわゆるベル・エポック。絵画では印象派が登場し、ピカソらがパリに住み、シュールレアリズムが準備され...。行ってみたかったなあ!。もしタイムスリップできたなら、全財産持ち出して、当時二束三文でも売れなかったモジリアニの作品を買い集めます!。