ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

「旅と郷愁の風景」を見る 〜川瀬巴水展・石川県立美術館

 車のアクセル踏んで小さな旅をして、金沢駅近くのホテルに投宿。深夜まで、腐れ縁の友と飲み、ホテルで目が覚めたら小雨模様でした。

 チェックアウトを済ませ、加賀百万石の名園・兼六園に隣接する歴史文化施設エリアへ。駐車場に入れたころちょうど雨が上がり、ぶらぶら散策しました。何やってるかな、と立ち寄った石川県立美術館。入り口を覗くと「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」(2023年9月2日▷10月1日)の掲示が。

 や、なんと。これは見なければ。

 巴水は大正から昭和の戦後まで活躍し、木版で風景を描き続けた浮世絵師です。欧米では東海道五十三次を描いた安藤(歌川)広重になぞらえ「昭和の広重」と称されています。アップルコンピユータの故スティーブ・ジョブスは、来日のたびに銀座の画廊で巴水作品を探したとか。

 そしてわたしも、ファンの一人です。2年前、新宿のSOMPO美術館でも巴水の企画展があって見に行きました。今回は展示内容も違います。

 

 代表作といえばこの「芝増上寺」かな。一番売れた版画でした。赤と白のコントラストと構図が見事で、日本的な情緒が感じられます。降る雪の表現もシンプルなのに、心に残る。いかにも欧米人が好みそうな作です。

 わたしのお気に入りは「品川」(昭和6年作)。どこかで読んだのですが、雨を線で描くのは、浮世絵の特徴の一つだそうです。確かに、伝統的な西洋絵画では、描かれた雨そのものを見た記憶がないような。

 

「品川」

 この作品、かつてネットオークションで見つけ、買いたくて煩悶したのですがあきらめました。会場で実物を見て、やはり欲しくなりました。

 ちなみに広重の有名な浮世絵には、激しい雨が描かれています。こういうところにも、19世紀から20世紀にかけてパリで飲んだくれていた、印象派の貧乏画家たちは驚いたんだろうなあ。

 

「大はしあたけの夕立」安藤(歌川)広重 1856年

 会場では、年代に沿ったテーマ設定で多数の作品をまとめてあり、平日なのに結構なにぎわい。わたしは巴水の画集を持っていますが、そこに収録されていない初見の作品もあって、生涯にわたる画業をゆっくり楽しめました。

 美術館を出ると、雨が降りだしていました。傘がなく、濡れながら駐車場まで急ぎました。