ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

<最後の浮世絵師>と出会った、遥かな記憶 〜「美術の窓」2016年12月号

 2020年の個人的な大事件(?)の一つは、春から絵を描き始めたことです。以来気にとめるようになったのが、生活の友社から出ている「美術の窓」という月刊誌。とはいえ、1冊千数百円もするし、わざわざ買うこともないな....という程度なのですが。

 たまたま秋に、ネットオークションでバックナンバー36冊(美品)がまとめて1,000円で出品されていました。ん。「これ、送料込みでも新刊2冊分よりよほど安いし」と入札したら、無事に落札。数日後、ダンボール箱にぎっしり詰まって家に届いたのです。

 冬に至るまで、毎夜いつもの麦焼酎を舐めながら、数年前の「美術の窓」を適当にピックアップしてはパラパラ眺めていました。

 2016年12月号、特集<最後の浮世絵師 月岡芳年>を手にしたのは最近でした。

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 月岡芳年(つきおか・よしとし)だって?。知らん。

 まあ、知らないなら、酔っ払って知らない世界を覗くのも悪くなかろうー。少しは賢くなるだろうし。

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 だれしも小学生になった前後、さらにそれ以前の記憶となれば、かなり曖昧なのではないでしょうか。わたしに絵本の記憶はありません。絵本を読んでもらうような家庭環境は幼年期にありませんでした。では、あれは一体なにだったのか。

 記憶を掘り起こすと、わたしの幼少期に刷り込まれているのは「安鎮と清姫」「八百屋お七」など、悲しくもおどろおどろしい物語なのです。だれかに読み聞かせてもらったのではなく、自分でページをめくったことを覚えています。

 当時、どの程度字が読めたのか。たいして読めなかったはずですが、なぜか物語の筋は頭に入っていて、それより遥かに鮮烈に記憶に刻印されたのは、物語に付された絵でした。

 なんとなく、月刊で販売されていた、大人向けの読み物シリーズだったような気がします。しかし違うかも。就学前後のわたしが夢中になったあの<出版物>の正体について、いくら考えても分かりません。

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 「美術の窓」バックナンバーをめくり始めた途端に、なんだかおかしな予感に囚われ始めたのです。各ページの作品を見るほど、不思議な既視感が漂い、いや、でもこんな浮世絵作者は知らないはず。

 そして54ページ目に至り。

f:id:ap14jt56:20201226195650j:plain「美術の窓」から

 この絵。紛れもなく恋人に会いたくて江戸に放火した罪人にして可憐な乙女・八百屋お七。もしかすると昔のあれでは?。でも、まさか...。

 半世紀以上も前の、あの絵を今確認することができない以上、記憶の絵と同一かどうか断定できません。でも、どちらでもいいことかも。分かる分からないではなく、幼い世界に外部から押し寄せてきたイメージと色彩。その記憶の感覚が、見事に重なるだけです。

 自分を形成した幼少期の土壌にあるのは、グリム童話とか絵本ではなく、こんなドラマツルギーあふれる絵だったのだと納得できて、なんだか面白い。

 その夜は、焼酎がいっそう進みました^^;。

f:id:ap14jt56:20201226205317j:plain「美術の窓」から

 月岡 芳年(つきおか よしとし、1839年4月30日(天保10年3月17日) - 1892年( 明治25年)6月9日)は、幕末から明治中期にかけて活動した浮世絵師。ーwikiより。

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