ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2025-06-01から1ヶ月間の記事一覧

無垢な心 天才の心 〜「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス

「アルジャーノンに花束を」(ダニエル・キイス、ハヤカワ文庫)を読むと、否応なくわたしたちは、人の幸福とは何かを問われ、欠陥だらけのこの社会の現実を直視することを強いられます。そして苦悩する主人公の姿に、胸を熱くする読者も少なくないと思いま…

フェルメールの黄色

フェルメールの絵を見るほど、心に広がるのは静謐です。 これほど慎ましやかでありながら、色彩の力を画布に定着した人はいないと思います。情熱的で荒々しく、構図も色も雄弁な画家はたくさんいます。フェルメールはわたしにとって、その対極。日常を描いて…

余韻をはらんで言葉は流れる 〜「沈むフランシス」松家仁之

散文詩を読むように、小説「沈むフランシス」(松家仁之、新潮文庫)のページをめくりながら、わたしはずっと考えていました。この文章(文体、表現の作法、エクリチュール)の魅力は、どこから生まれてくるのだろう...。 なによりもまず、丁寧な記述です。…

幕末と維新 彼らは生き抜いた 〜「潮音」宮本輝

歴史小説の主人公は概ね、名を知られた武将たちです。戦国大名や軍師たち、幕末から維新にかけてであれば近代への扉を開いた志士たち。ところが「潮音」(宮本輝、全4巻、文藝春秋)は、越中富山の一人の薬売りが主役です。 幕末に生まれた薬売りが、老いて…