ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2024-12-01から1ヶ月間の記事一覧

能登の絵師 震災から1年の大晦日

あと数時間で、2025年を迎えます。1年前の元旦夕方、能登半島地震が起きました。わたしが暮らす地は能登に近く、震度5強。初めて体験する強い揺れが長く続き、直後に津波警報が出ました。自宅は海岸線から4、5キロ離れていますが、近くを川が流れ、海抜は1メ…

絵に夢を託した画家たち 〜「近代絵画史」高階秀爾

年末になり、たまたま見ていたテレビ番組で、指揮者の小澤征爾さん、詩人の谷川俊太郎さんら2024年に亡くなった著名人を取り上げて1年を振り返っていました。個人的には、美術史家で評論家の高階秀爾さんも忘れられません。10月17日、92歳の生涯を閉じられま…

信仰ということ 〜「沈黙」遠藤周作

祖母だったかほかのだれかだったか、確かな記憶はないけれど、子どものころこう言われました。 「隠れて悪さをしても、ののさまは見ていらっしゃる」 仏様のことを、わたしが暮らす地方では子ども言葉で「ののさま」と呼びます。「見ている人がいないからと…

本についてのあれこれ

初代iPadが日本で発売されたのは2010年5月です。発売初日、銀座のアップルストアには開店前から長い列ができ、ニュースになりました。 同じ日の午前中、田舎に暮らすわたしの自宅には宅配便でiPadが届きました。アップルの公式サイトで、事前に購入予約して…

河の流れとうたかた 〜「方丈記」鴨長明

長く生きると、次第に「若さ」をまぶしく、うらやましく思うようになります。もし自分に再び若さが与えられたなら、ああするだろう、こうするだろう...と思い。しかし、それは後出しじゃんけんと同じで、実に身勝手な夢想にすぎません。 仮に若返ったとして…

無力な人 寄り添う人 〜「イエスの生涯」遠藤周作

これは評伝なのか、小説なのか。「イエスの生涯」(遠藤周作、新潮文庫)を読めば、だれもがそう思うでしょう。紀元前3年に生まれ、ナザレの町で貧しい大工として働き、短い生涯の晩年に弱きものへの愛を説き、33歳ごろ十字架の磔になって刑死したイエス・キ…

蕎麦 飛騨路と剣客商売 〜食の記憶・file7

特段、蕎麦にこだわりはないけれど、あの歯触りと淡白で微妙な味、喉越しはうまいと、60歳を過ぎてから知りました。十割、八割、それぞれの風味があります。 地元の駅の立ち食いだって捨て難い。これは立ち食いが、激務だった現役時代のさまざまな記憶と結び…