ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

凪の日 夕陽の日本海と北アルプス 〜池波正太郎、カミュ

 まだ初冬とはいえ、晴れた日は北陸、東北の日本海側に暮らす人たちにとってかけがえのない1日です。

 寒気とともにシベリアや中国から流れてくる冷たい冬雲は、北アルプスなど本州の山々にぶつかります。雲は、日本海側に雪や雨を降らせて消え失せる。そして山の向こうの太平洋側へは、雲のない乾いた空っ風だけが流れ込みます。これが、天気予報でお馴染みの「冬型の気圧配置」です。

 これから早春のころまで、わたしの住む地では陽射しを見る機会が少なくなります。おまけに日の出から日の入りまでの時間が短いので、なんとも重苦しいシーズンの到来。

 しかし、そうした風土の中で暮らしていると、しみじみと「当たり前」のありがたさを再発見することがあります。例えば陽射し。昨日、今日は晴れて暖かい日でした。夕暮れ前に思い立ち、海岸へ車を走らせました。

 足元から続く凪の海。遠望する北アルプスは、白い雪が太陽に染まっていました。夕焼け時だけの景色です。

 天候が荒れると、白い波濤が荒々しくざわめいて押し寄せ、横殴りに雪が舞います。低く厚い雲に覆われ、山々の姿は見えません。

 家に閉じ込められる冬はまた、腰を据えて何かに立ち向かう季節。いつのころからか、わたしはそんな思いを抱き始めました。

 「春になるまでにあの全集を読み倒すぞ」「落ち着いて焦らず、課題を克服したい」ってな感じです。実際のところ、完遂できたためしはないのですが。強制的に禅寺に幽閉されるような気分なので、心がそんな反応をするのです。

 

 11月中旬から、池波正太郎さんの「真田太平記」(朝日新聞社版、全18巻)を読んでいます。いま14巻を読了して、真田幸村が大阪城に入ったところ。いよいよ冬の陣、夏の陣で豊臣家の滅亡に向かいます。

 池波さんは「剣客商売」「鬼平犯科帳」などの<時代物>は読んでいましたが、実は<歴史物>を敬遠していました。わたしにとって歴史物は、司馬遼太郎さんを筆頭に作家の構図ができ上がっていて、あえて池波さんをそこに参入?させることに躊躇していたのです。

 読めばやはり、池波さんの人物造形は面白い。そして、なるほど草の者=忍者、現代なら諜報スパイ=組織を大長編の縦糸にからめてあるのかあ。忍者といえば、司馬さんの「梟の城」や「風神の門」を思い出します。

 かたや一方で、前回のブログ記事に書いた「2010年宇宙の旅」を読んだり、アルベール・カミュの「異邦人」を再読したり。「異邦人」は、少し周辺を固めてそのうち書くつもりです。

 サルトル全集の「SITUATIONS I」(人文書院)にある異邦人論と、19世紀からの小説の流れの中に「異邦人」を位置付けたN・サロートの「不信の時代」(紀伊国屋書店)を読んでから書こうと考えています。

 ちなみにどちらも絶版本。遠い学生時代に買って書架に眠っていた本を、引っ張り出して机の積読本に加えました。年寄りのセンチメンタル・ジャーニー(感傷旅行)みたいな再読ですが、「こんな小難しい論考にのめり込んでたよなあー、でもいまとなれば少々辛いw」と、ページをめくって遠い目...。

 あ、ブログ記事は「いかに善き人をだまくらかして本を読んでもらうか」を旨としているので、「異邦人」も小難しい独りよがりな内容は極力排除します(予定)^^;。

 

 予報によると、明日から天気は崩れるよう。