ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

白い雪と青い海

 家から5キロ余り、1時間ほど歩くと海に行き当たります。東を臨むと、青い日本海の向こうに、雪を頂く北アルプス・立山連峰が広がっています。

 遠望する雪の白は、夏の訪れとともに下から消えていきますが、どんな猛暑でも上には残り続けます。山脈の深い谷には、日本で唯一の氷河があるくらいですから。日本の氷河は北海道ではなく、3000メートル級の山々が連なる北アルプスに確認されています。

 この海岸に至る往復10キロは、わたしのお気に入りのウオーキングコース。歩きながら、実につまらないことにばかり頭を巡らし、波打ち際に到着したらほっと息をつき、ぼうっと雪の山々を眺めるのです。

f:id:ap14jt56:20210713213908j:plain

          (5月の連休明けにスマホで撮影)

 冬山は積雪10数メートルにもなり、それが秋まで少しづつ解けて、幾本かの大きな川の流れを年中枯らすことなく、さらに山肌から土にも染み込みます。染み込んだ地下水は、数年から10年ほどかけて大地の下を移動し、湧水となって地上に戻ります。

 一部は海底の湧水になり、湾内にミネラルを供給しています。四季を通じて、豊饒の海に育つ魚介類を食べ、湧水が豊富な湾岸地域では、これから冷たい水の流れにスイカを冷やし、野菜を洗います。

 この景色を見るたびに、自然のサイクルの中で生かされていることを実感したりもして。

 

 さて、かつて籍を置いていた地元新聞のコラムを、今も定期的に担当していることは以前、少しだけふれました。

 たまたま今日は立山連峰を前振りにした原稿だったので、ブログの方にも載せてみます。

**********

 

 一日の始まりは、立山連峰の背後から明るくなる。この地に住む者にとって、変わることのない朝の訪れである。梅雨から夏にかけて昼が長いから、早朝は蒸し暑さや酷暑を避けてひと仕事できる貴重な時間帯だ。

 明け方を、古語では「かはたれ」と言った。現代の言葉で解説すれば「かは(彼は)たれ(誰?)」と、問いかけるほどの薄明だ。今お読みの朝刊もかはたれ時に、配達員さんが届けてくれたのかもしれない。

 数年前、健康のためにとウオーキングを始めた。つらいのは7、8月の暑さだ。早起きして涼しい時間に歩けばいいのは分かっていても、根っからの夜型人間にはそれができない。半面、夕闇のころには元気になるから困ったものだ。

 「かはたれ」の対になる言葉に、「たそがれ」がある。西に日が沈む薄暮。現代は街灯がともっていつまでも明るいが、昔は近くの人さえ顔見知りかどうか判別し難くなった。

 「たそ(誰だ?)がれ(彼は)」時である。こちらは今でも日常的に使われ、抒情的な味があって詩や小説にもよく出てくる。「よこはま・たそがれ」という大ヒット曲もあった。

 衆議院の任期満了が10月に迫り、本来なら政局はたそがれ時だ。ところが新型コロナに東京五輪が重なって、その対策が最優先である。政治家が忙しいのはよしとしよう。ウイルスの方は、そろそろたそがれてくれないか。

*************

f:id:ap14jt56:20210713221400j:plain

 

 このコラム、決まったスペースに、字余りなく、字足らずなく埋めるために、554文字が原則です。1字だけの字足らずはかろうじて容認しますから、553文字もなんとかセーフなのですが、書き手としては最後のひと升をきっちり『。』で埋めることに、妙にこだわったりします^^;。

 加えて『、』や『。』が決して各行頭に来ないようにします。

 おそらく、お読みになる方は想像もしない部分で、けっこう面倒なのです。はあ..。