ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

だから歴史は面白い 〜「磯田道史と日本史を語ろう」

 「磯田道史と日本史を語ろう」(文春新書)は、雑誌に掲載された12本の対話をまとめた1冊です。磯田さんと語り合うのは養老孟司さん、半藤一利さん、浅田次郎さん、阿川佐和子さんら。1対1の対談だけでなく、2、3人の専門家たちと語り合う対話もあります。

 「信長はなぜ時代を変えられたか」「幕末最強の刺客を語る」など多彩なテーマで、磯田さんと専門家たちの異なる視点が行き来し、交錯します。一人の著者の脳内で完結する歴史本と違い、会話形式なので読みやすく、視点が外に開かれていて面白い。音楽ならソロではなく、セッションの魅力ですね。

 磯田さんは1970年生まれの気鋭の歴史学者。長くNHKBSの「英雄たちの選択」にレギュラー出演していて、たまたま見ることがあると必ず、わたしは発言に感心していました。番組は古代から近代まで、さまざまな英雄たちの、岐路に立ったときの心理を深掘りします。磯田さんの専門は江戸時代ですが、時代を問わずに、英雄たちをまず「生身の人」として分析するので説得力を感じるのです。

 かつて、映画「武士の家計簿」(監督・森田芳光)を観て、涙ぐましい幕末の武士の暮らしぶりが心に残りました。わたしは読んでいませんが、原作は磯田さんが書いた同名の本(新潮新書)です。

 こうした経緯があり、書店に平積みされていた「磯田道史と日本史を語ろう」を思わず手に取り、でも桜木紫乃さんの最新作にしようか、少ない小遣いでどちらを買うか迷いました。結局は両方買ってしまったけれど。う。

 さて、対話者の一人に「歴女」を自称する女優の杏さんがいます。運転免許を取った初ドライブが、幕末ゆかりの地巡りで、新撰組の隊士では土方でも沖田でも近藤でもなく、永倉新八が一番好きという筋金入りです。彼女が、こんなことを言っていました。

  歴史を好きになり、歴史を知れば知るほど、視点がどんどん俯瞰的になる気がします。

 これは歴史が好きな人すべての、率直な本音だと思います。

 過去に何があったかではなく、人なのですね。永倉新八だろうと、信長だろうと、紫式部だろうと、よく知ることでそれぞれの時代を生きた人間の鼓動を感じ取ることができます。

 たとえ石器であっても、見つめれば、使っていた原始の人の暮らしが心によみがえる。あかぎれた手に石包丁を握っていたのは、わたしの986世代前のじいさんかばあさんかもしれない。「ようやく雪が溶けて、あったかくなった」と、原始日本語でつぶやきながら。

 それは、自分の視点が俯瞰的になった状態です。平面の広がりではなく、遠い過去と一体になった三次元の奥行きで、現在の世界、そして自分をとらえるようになります。....と、わたしは思う。

 

 さて、以下は。蛇足どころか...完璧に<違う話>です。

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 現在

 

 2024年2月中旬

 

 2024年1月下旬

 

 孫をモデルにした、サムホールというサイズの小さな油彩。夜に焼酎飲みながら描くことが多く、進まないながらも4月には完成しそうです。