ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

日日是好日を目指して

 久しぶりの雨。ぱらぱらと、止むことなく雨音が耳に入ってきます。緑が一気に鮮やかさを増し、紫陽花の季節がやってきました。

 また季節はめぐりきて うすむらさきのほほえみはよみがえる

 ...と始まる、失恋の詩(金井直「あじさい」)があります。高校生のころのお気に入りでした。

 同じ雨でも、梅雨はぱらぱら、晩秋はしとしと。なぜなら、茶室で聴く初夏は雨粒が若葉に弾かれるけれど、落葉の秋は静かに地面に沁みていくだけだから....。森下典子さんが「 日日是好日 」(新潮文庫)に、そう書いていたのを思い出しています。

 好天続きだった先週末、昔からの仕事仲間4人で東京へ小旅行。わたし以外は現役で、それぞれ会社も違います。朝乃山ファンと、なぜかヤクルトの選手ではなく球団マスコット「つばくろう」のファンがいて、大相撲とプロ野球観戦が目的でした。みんな働き盛りなので、この小旅行のために何か月も前からスケジュール調整したようです。

 昼は国技館のある両国から水上バスに乗り、竹芝桟橋まで1時間弱、運賃700円で隅田川にかかる橋の下をいくつもくぐりました。川から見る東京の街並みは新鮮で、江戸は浅瀬や湿地を大々的に埋め立てて造られたことがよくわかります。

 「剣客商売」をはじめ池波正太郎さんの時代小説には川や堀割、小舟での移動がよく出てきて、そのシーンが目の前を移り行く光景と重なりました。ふだんは意識しないけれど、東京の下町はもともと水運の街だったのだと実感できます。

 埋め立てた、もしくは海に近い湿地だったエリアは、井戸を掘っても塩辛い水しか出ず、徳川幕府は真水をひいて供給する大々的な土木事業を行いました。これらの経緯は門井慶喜さんの小説「家康、江戸を建てる」(祥伝社)に詳しいですね。

 

 現役を引退した自由人のわたしは、最終の新幹線で帰る仲間たちを見送り、さらに1日居残りました。半年の間没頭した仕事が終わったばかりで、ほっとはしたけれど、なかなか元の生活ペースに戻れず、中途半端な精神状態でした。そのリハビリも兼ねて、もう少し日常から離れていたかったのです。

 翌朝、銀座の端っこにあるホテルから新橋駅まで徒歩5分。新橋から横須賀線に乗り、50分で北鎌倉に着きました。紫陽花寺として名高いのは明月院ですが、少し時期が早いし、行ったこともあったので、やや地味な長寿寺へ。予想通り人はそれほど多くなく、茶席にもなる1室の座布団に腰を下ろして、庭を眺めて過ごしました。

 ただ、ぼーっとして。

   

 最近、文学作品より日本の歴史に食指が動きます。

 小説もいいけれど、リアルの世界の自分の立ち位置を確認したくて、歴史に惹かれるのは歳のせいでしょうか。

 ヤフオクで小学館の「日本の歴史」全16巻+別巻1を落札。第1巻「列島創世記」第2巻「日本の原象」を読了し、これから3巻目の「律令国家と万葉びと」に入ります。歴史は過去の事実を基にした研究と学問の世界ですが、書き手によって多彩な時代像が描き出されます。

 歳月の流れと社会も、再現する人によって異なる像を結ぶ。わたしにとって歴史本は、時代をテーマにしたノンフィクション作品です。

 北鎌倉を歩くと、紫陽花はあちこちでちらほら咲き始めていました。6月に入った来週あたりから、見ごろになるのかな。

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