「伊勢物語」と聞いて、は?。
高校時代に古文の教科書にあった気がするけど...というのが、そもそものわたしの知識でした。数年前、高樹のぶ子さんの「小説伊勢物語 業平」(日本経済新聞社、泉鏡花文学賞受賞)という本が、書店に平積みされていたのは覚えています。未読だけれど...。
本家の「伊勢物語」中、おそらくもっとも知られているのが、教科書に出てくる「筒井筒」ではないでしょうか。幼馴染の男女が、大人になって結ばれる話です。
筒井つの 井筒にかけし まろがたけ すぎけらしな 妹見ざるまに
(井戸を囲う「井筒」=いずつ・大人の胸ほどの高さ=まで、早く背丈が伸びたらいいのにと願っていた幼いわたしは、もうすっかり井筒を超えてしまったよ。幼馴染のあなた=妹=と、会うこともなくなってから)
甘酸っぱい初恋?の相手へ男が送った歌に、幼馴染が歌で答えます。
くらべこし ふりわけ髪も 肩すぎぬ 君ならずして たれかあぐべき
(昔あなたと髪の長さを比べ合った振り分け髪も、肩をこえて長くなりました。あなた以外のだれのために、髪上げ=大人の女の髪型=をしましょうか)
女はどんな思いで返歌をしたため、読んだ男の喜びはどれほどだったか。二人は結ばれ、純粋無垢なラブストーリーの完結です。井戸の周りで遊んだ男の子と女の子。はしゃぎ合う声が谺して聞こえてきそう。そして成人して男と女になったとき、二人の息遣いが伝わる贈答歌です。
ここまで、実は前半に過ぎません。記憶にないのですが、この段の後半も、教科書に載っていたっけ?。わたしは落第寸前の高校生だったので覚えていません。
めでたく結ばれてからの後半は、男の浮気や猜疑心、女の純粋さが語られます。前半だけなら美しい御伽話の域ですが、後半があることで、この段は現代のわれわれのリアルに通じる深みを獲得しています。構造的に、お伽話ではなく小説みたいな。

通読すると、「筒井筒」の段は物語の中でも極めて異色な話であることが分かります。全125段は多くが「昔、男ありけり」で始まる大人の恋物語。すべて男目線。短い段は数行しかありません。
「万葉集」「古今和歌集」など、和歌はしばしば、その歌が生まれた経緯を記す詞書(ことばがき)が前に添えられます。この詞書を物語風(フィクション)にし、各段は独立した物語でありながら、全体を緩やかなストーリーで一つの作品にしたのが、最古の歌物語とされる「伊勢物語」です。
現代の本読みとして厳格にストーリー性を求めると、破綻だらけの勝手気ままな古典なんだけど。そこは「源氏物語」などとの大きな違いです。
「男」は、平安前期の9世紀に生きた在原業平がモデルとされています。作者、成立時期は諸説あって不明。文献上、もっとも古く「伊勢物語」に言及したのは紫式部や清少納言で、「源氏物語」の中ではしっかり読めば深みのある「昔の物語」として出てきます。
以前にも書きましたが、近年のわたしは絵を描く途中に設ける30分ほどの気分転換が、読書時間です。気分転換を1日何回するかで、ほぼその日の読書時間が決まります。そこに数冊の併読作品が押し寄せるわけで、何を読むかは気分次第ですw。
どちらかと言えば短時間で区切りをつけられる作品が手ごろで、「伊勢物語」(新潮社古典文学集成、渡辺実校註)は本文130ページ余りに125段の短編が集まっているので、ぴったり嵌りました。2か月ほどかけて読了。ふう。
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