ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

昭和が残る飛驒路は...英語圏 〜高山にて

 2時間半、車のアクセル踏んで紅葉の山道を楽しみ、岐阜県高山市へ行ってきました。本州の真ん中を縦断する高速道路(東海北陸道)を使えば、少しは時間短縮できるのですが、長いトンネルが多ので旧道を走りました。

 山々は見事に色付いていました。あの猛暑が気づけば遠くなっていて、秋です。

 岐阜県は南は愛知県に、北は富山や石川など北陸に接した海のない県です。そのさらに内陸部にあるのが、飛驒路の中心である高山市。北アルプスや白山など3000メートル級の峰々に囲まれています。

 江戸時代は幕府直轄の天領でした。ここから切り出す木材、炭などが貴重な資源だったから。だから城はありません。代わりに、この地を治めた幕府の「陣屋」があり、いまは観光名所です。そして古い街並みが点や線ではなく、歩けば楽しく半日過ごせるエリアで残っています。

 平日もかなりのぎわいで、昼夜ともすれ違うのは海外の観光客ばかり。欧米からと思われる人が多く、中国や韓国人など東洋系が少ない。彼らがお金を落とすことで街の魅力が維持できているとすれば、オーバーツーリズム手前のいい関係性ができているような気がしました。

 夕暮れ時、人気のお店の前には開店前から長い列があって、ほぼ外国の人たち。おそらくSNSの情報拡散なんだろうと推測しました。入り口にメニューを掲示した飲食店も多くありました。英語、中国語、韓国語が主役で、最後に日本語です。地元のお店も、全国チェーンの飲み屋さんもそんな具合でした。

 

 わたしはブランド肉の飛騨牛を食べようと、目に入った焼肉屋さんを覗くと、運良くカウンターに空きがありました。テーブル席はみんな予約済みで、続々と埋まっていきました。

 この間も、予約のない観光客が何組も入ってきます。

 「すいません、席がありません」などなど。(英語を再録できずw)

 断る店員さんの英語のなんと流暢なことか。唯一の例外は早い時間、わたしの次に入店した白人カップルで、同じカウンターで焼肉を堪能していました。真剣な目でメニューを見つめ、はしを使いながら睦み合う姿がほほえましい。

 深夜、ホテルでちびちび飲んでいるうちに何か食べたくなりました。焼肉がふだんの夕食より2時間も早かったせいです。部屋にあった観光パンフレットを見れば、午前2時まで営業している高山ラーメンのお店が1軒。再び着替えて出かけると、時間のせいか店内は地元の人ばかりでした。

 

 しかし、ホテルに戻って入浴まで済ませたのに、またラーメンなんて!。背徳感が半端ありません。そして醤油ベースの<背徳の味>こそ魅惑的でした。

 

 翌朝はさすがに食欲がわきません。コーヒー飲むだけでいいか...とホテルを出てぶらぶら歩き、レトロな喫茶店を見つけました。傷だらけの扉を開けて入れば、姉妹に見える「おばあちゃん」2人が切り盛りしているようです。

 カウンターに常連らしきじいちゃんとばあちゃんが3、4人。世間話に盛り上がっていました。わたしが座ったテーブル席には、当然のようにガラス灰皿が置いてあり。

 狭い店なのでお年寄りたちの話が自然に耳に入ってきました。
 「早めに帰る、バス時間あるし。乗り遅れたら次まで長いし」
 と、じいちゃん。そのバスを巡って、またしばし「うんぬんかんぬん」。どうやら自治体が運営するコミュニティーバスのようで、車のない、地方の交通弱者にとっては貴重な公共交通。じいちゃんは朝からバスに乗って、このお店に通っているようです。
 おいしいコーヒーをいただき、430円。ぴったり小銭で払って出るとき、カウンターそばのピンク電話に気づきました。思わず
 「これ、使えるんですか?」
 「受話器(耳に)当てて10円入れれば、ちゃんと音がなるから」
 おばあちゃんはさも当然、おかしなこと尋ねるねえ..といった風情です。それはレトロ趣味ではなく、時間が止まったまま冷凍保存された昭和の空間でした。いちげんさんのわたしは、なんだかほっとした笑顔を残して店を出たのでした。
 帰路は高速道路を使いました。