わたしがよく使う田舎の県道は、途中1キロほど竹林の中を通ります。毎年4月下旬から5月の連休明けまで、その区間にタケノコ直売所がいくつも開店し、風物詩になっています。今年もシーズンに入りました。
直売所はどれも屋根と売り台があるだけ、形ばかりの粗末な小屋です。竹林を所有する農家のばあちゃんたちが、朝から土の付いたタケノコを台に並べて売っています。背後の竹林では、じいちゃんが黙々とタケノコを掘っていたり。
タケノコご飯、昆布と一緒にした味噌煮。それから...。
春の味覚としてこの時期、食いしん坊には外せないご馳走です。年金が主たる収入である高齢者は、高級店の料理などとうてい無理ですが、旬の味で季節を噛み締めるのは「ばあちゃんのタケノコ」で十分。
タケノコを美味しく喰らうにはコツがあって、なに簡単。掘り立てをなるべく早く、ぐつぐつあく抜きすること。だから午前中に泥付きを求め、家に帰るや水で洗いつつ、湯を大きな鍋で沸かします。今日は小ぶりな3つを、ばあちゃんから700円で買ってまず庭でじゃぶじゃぶ。
掘り立てなら生のまま、醤油とわさびで「刺身」もいけると聞いていますが、わたしはまだ試したことがありません。試したいけれど、昼飯時になります。
というのもタケノコの風味は掘って1時間単位で落ちるので、生を夕食では遅すぎる。だぶんエグ味が強くなると想像。そうすると(わたしの場合)酒が欠かせず、昼からタケノコの刺身で酔う!って、やりたい...けど平日の昼となると家庭内の目が怖い小心者です。う〜。
もし午後のスーパーで朝に掘ったタケノコを買ったときは、できるだけ早く米糠か米の研ぎ汁、もしくは重曹でアク抜きの水煮をおすすめします(ネットにやり方動画満載)。アク抜き後にどう調理するかは、それから考えればいいと思います^^;。
スーパーその他でタケノコと呼んでいる多くは孟宗竹。「孟宗」は中国の政治家だった人で、江戸時代に日本に伝わった帰化植物です。繁殖力が旺盛で日本中に広がって竹林を形成しています。
「日本書紀」その他に出てくる竹は、真竹(マダケ)その他古くから自生していた竹で、これらは帰化植物なのか日本固有種なのか定説はないようです。確かなのは、「源氏物語」や「枕草子」の時代にいまのタケノコ、孟宗竹はなかったということです。かぐや姫の竹も、孟宗竹ではありません。
今晩は旬のタケノコで、なににするかなあ。合うのはやっぱり昆布だよなあ。美味しさは食べることだけでなく、むしろ調理する過程にあると思います。これはどんな高級店でも味わえない、一人だけの贅沢。夕方から、イメージする一品を皿や小鉢に具体化するまで、味見を肴にちびちび飲むのが何より楽しみなのです。
ところで一方、うちの庭では山椒の若葉が開き、小さな実が見えます。
摘んだ山椒の若葉は、ピリリと辛い、他に替えようのない薬味。とりあえず思い浮かぶのは、カツ丼かな。カツを家で揚げると油が面倒だからスーパーの惣菜でokとして、近々カツ丼つくろう。昭和育ちの発想w。
山椒もこれから旬。丼や混ぜご飯だけでなく、出汁であっさり炊いた大根の上に添えて...、など活躍する名脇役です。秋まで使えますが、柔らかい若葉のころが一番。実の方は醤油漬けにします。
山椒は3年前、「土を喰う日々ーわが精進十二ヵ月」(水上勉、新潮文庫)を読んで無性にほしくなり、大きな鉢に苗木を買って植えました。以来、わが友人のような庭木になりました。
何はともあれ、食い物が美味しい日は、幸せな日なんだと思います。
<本日の1品>
タケノコ、昆布出汁煮。自家製山椒添え。器は大量生産庶民用。