今日は朝からウオーキングシューズを履き、車で4週間に1度通っている循環器内科へ。過労で発症した不整脈の持病があって、ここ10年近く薬が欠かせません。たぶん死ぬまで。 診療後、街中の有料駐車場に車を入れ、川べりの散歩に出かけました。 私が通う医院…
「不潔なおじさん」を筆頭に、とかく女性に不人気な生き物はいろいろ思い浮かびますが、木々の緑が深まるにつれて最近元気になり、這い回ったり、飛んだりする一部の虫たちも嫌われ者の部類でしょう。そもそも「害虫」という言葉はよく耳にしますが、反対語…
今年の本屋大賞はちょっと肌触りが違うようだ...と、受賞作紹介文で思い、本屋さんではタイトルとカバーイラストにやや尻込みしたけれど、やっぱり買うことにして、読み始めれば「うん、悪くない」と何度もにんまりしたのが「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬…
日本の昔話、説話に材を取った「お伽草子」(太宰治、新潮文庫)が書かれたのは、昭和20(1945)年3月から7月にかけて、米軍による空襲が激しくなった時期です。太宰も疎開先の家を焼夷弾に焼かれ、書き上げたばかりの原稿を抱えて炎から逃げたりしました。…
私の住む地でも、ようやく桜の開花宣言が出ました。と言っても、うちの庭のソメイヨシノが咲き始めるのはこれからで、赤みを帯びて膨らんだ蕾は、まだ一輪も開いていません。去年より1週間遅い。今日から、新しい年度、令和4年度が始まりました。 現役を退い…
長野の山奥にある祖父母が暮らす家へと、曲がりくねった坂道を父が運転する車は進みます。乗っているのは母と姉、そして小学校5年の<私>。お盆には毎年、その山奥の家におじさんやおばさん、従兄弟たちが集まるのです。 「地球星人」(村田沙耶香、新潮文…
日本人は印象派の画家たちが大好きです。モネの「睡蓮」、ルノアールが描いた少女や女性たち、ドガの踊り子、ゴッホの「ひまわり」や「星月夜」...。(厳密には、ゴッホは「ポスト印象派」とされています) もし私が美術館の学芸員・キュレーターで、上司か…
明治の終わりから昭和にかけ、時代の耳目を集めた女性としてわたしがまず思い浮かべるのは柳原白蓮です。<大正の三美人>と称された一人で、歌人。父は伯爵という超エリートの血筋。 波乱にみちた生涯については、林真理子さんの「白蓮れんれん」(集英社文…
「これは面白い○○だなー」 読みながら何度も心の中でつぶやき、つぶやきながらもどかしかったのは、「○○」に当てはめるべき言葉が見つからないことでした。評論、随筆、エッセー?。どれもぴったりきません。小説を取り上げているけれど書評とは言えないし。…
紫式部の「源氏物語」は全54帖。光源氏の晩年を描いた41帖の「幻」を最後に、輝くヒーローの物語は終わります。続く42帖の「匂宮(におうのみや)」は光源氏の死の8年後の出来事が描かれ、ここから残る13帖は新たな世代による展開になります。 ただし、54に…
あかりをつけましょぼんぼりに…と、今日は桃の節句。高齢者二人世帯のわが家にも、お雛様が飾ってあります。高校を卒業して大阪の大学に行き、今は2人の子の母になって東京に暮らす、娘の雛飾りです。お雛様を見ながら老人が思うのは、 光陰矢のごとし。 こ…
今日から3月に入り、いろいろと身辺に区切りがつきました。 一つは新聞のコラム。週1本といえども疲れが溜まり、早々に引退したいと以前から告げてありました。長く在籍した会社からのオファーなので執筆を引き受けたものの、3年目に入ったころから息切れが…
ジョルジュ・ヴァザーリ(1511ー1574年)の名前にピンとくる人は、ごく限られていると思います。イタリアの画家、建築家。芸術家としてより、その名がルネサンス期の美術を研究する人たちにとって必須であるのは、彼が「画家、彫刻家、建築家列伝」を書き残…
桃の節句も近いというのに、わたしの住む地は大雪警報発令中です。家に籠るのが一番...なのですが、こんな日に限って朝から仕事の打ち合わせが入っていたため、昼まで出かけていました。 朝食前に、駐車場の雪かきでひと汗。時間に余裕を持って車で家を出る…
新型コロナウイルスのパンデミックは、人びとの生活を一変させました。自粛、リモートワークなど、さまざまな言葉で新しい日常を切り取ることができますが、一つの言葉の背後には異なる事情を抱えた千差万別の暮らしと人生があります。 「東京ルポルタージュ…
師走のころから立春を過ぎたここまで、大きなエネルギーを注がざるを得なかった仕事にようやく一区切り、一息ついて、さてどうしようかと、焼酎お湯わりを舐めていた昨夜、手にしたのは「鬼平犯科帳」(池波正太郎、文春文庫)の16冊目でした。 このシリーズ…
私小説作家、西村賢太さんが亡くなりました。私は決して、西村さんの熱心な読者ではなかったので、タイトルに<追悼>と冠するのはおこがましいのですが、以前から現代の文学シーンにおいて特異な存在感を発する作家だという実感があり、突然の死は驚きでし…
わたしは言語学を学んだこともなければ、日本語を研究する趣味もありません。しかし、三浦しをんさんが国語辞典編集者の地道で味わい深い喜怒哀楽を描いた小説「舟を編む」などは、心底楽しみながら読みました。<ことば>というものに少し、興味をそそられ…
典型的な私立文系人間のわたしが、パソコンに出会ったのは、1990年代前半でした。会社のデザイン部門にマッキントッシュ・コンピューターなるものが導入され、新し物好きのわたしはときどき遊びに行って、いじくっていました。 そのうち、ハマってしまいまし…
一昨年11月に逝ったうちの愛犬・くーには、ピースという兄弟犬がいました。 くーはイエローでしたが、ピースはブラックのラブラドールでした。よくブラッシングしてもらっていたのでしょう、見事に艶のある黒。3世代が暮らす広い屋敷に飼われていました。 ピ…
「絶望読書」(頭木弘樹=かしらぎ・ひろき=、河出文庫)とは何とも、意表を突いたタイトルです。何なのだ、これは?。つい手にし、読まねばなるまい、でした。 簡単に言えば、お勧め本や映画、落語、テレビドラマを紹介したガイドブックです。ただし心底打…
百田尚樹さんという小説家による歴史本・日本通史が「日本国紀」(幻冬舎文庫、上下巻)です。百田さんを知る人がまず思い浮かべるのは、「永遠の0」や「海賊と呼ばれた男」(本屋大賞)のはず。2作ともとても面白い小説で、一気読みした人は多いと思います…
仕事始めの日になって、いまさらですが 明けましておめでとうございます。 個人的には比較的静かな年末年始でした。大晦日は、部屋にこもって絵を描きながら正月を迎えました。このところ空いた時間には、本を読むより油彩に集中してリフレッシュしています…
俳句には季語が織り込まれている。 芭蕉の句も、雪山を眺めて隣のおじさんがひねった作も、巡る季節の一断面を詠んでいる。名随筆を遺した物理学者・寺田寅彦は、日本の春夏秋冬が見せる表情は多種多様で、これが私たちの感性を育み、文芸として発展したのが…
今年のクリスマスイブはわたしにとって、単に残り1週間になった2021年のカウントダウンが始まる日です。数日前、ある手書きの自伝原稿前半がどっさり届きました。今日も半日、その原稿を読み込んでいました。 来年1月半ばまでに、必要なところに手を入れて整…
夏目漱石の生涯を読み進むにつれ、いつの間にか自分も、同じ空気を吸い、同じ時間を生きているように思われてきます。「ミチクサ先生」(伊集院静、講談社)は、漱石を軸にしながら、正岡子規ら日本の近代文化を切り拓いた若者たちにスポットを当てた群像劇…
電話が鳴ることに、いい思い出がありません。 最前線の新聞記者だったころは24時間、たとえ明け方であろうと電話(あるころからは携帯電話)が鳴りました。事件発生か、事故か、あるいはそれ以外の何か。強大な力を持つ政治家が亡くなったとか、自然災害など…
12月にもなれば、北陸は雪の気配です。冷たい雨やみぞれを降らす雲で空は覆われ、晴れる日が少なく、やがて分厚い雪雲に変わっていきます。昼過ぎにはもう、雲の向こうの見えない日没に向かって、長い夕暮れが始まる気がするのです。 若いころはそんな鬱々と…
それが俳句であるか川柳であるか、はたまた戯言に過ぎないかは別として、指折りながら1度や2度くらいは五七五と、頭をひねった経験のある人は多いと思います。 「俳句、はじめてみませんか」(黒田杏子=ももこ=、立風書房、1997年)という絶版本を、わざわ…
あの葉がすべて落ちたとき、わたしの命も消える...は、よく知られたO・ヘンリーの名篇「最後の一葉」です。うちは11月末、庭のソメイヨシノに残っていた最後の一葉が散りました。月がかわり、トイレに掛けてある小ぶりなカレンダーは、最後の一枚を残すのみ…