ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

言葉は面白い と目からうろこ 〜「日本語の大疑問」国立国語研究所編

 わたしは言語学を学んだこともなければ、日本語を研究する趣味もありません。しかし、三浦しをんさんが国語辞典編集者の地道で味わい深い喜怒哀楽を描いた小説「舟を編む」などは、心底楽しみながら読みました。<ことば>というものに少し、興味をそそられる一人です。

 そんなわたしですから、書店で「日本語の大疑問〜眠れなくなるほど面白いことばの世界」(国立国語研究所編、幻冬舎新書)という本を見かけ、つい買ったわけです。出版社が付けたに違いないサブタイトルの「眠れなくなるほど面白い...うんぬん」を、真に受けたわけではありません。

 この本を読んで本当に「眠れなくなる」とすれば、よほどの日本語<オタク>もしくは<ヘンタイ>に限られるでしょう。以上は、近年の日本語の用法に沿った辛口評価です。さて、読者獲得のための売り手の過大なアピールは不問に付すとして、

 けっこう面白かった。

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 【問い】

 「あのー」や「えっと」が多い人は話べたなんでしょうか?

 この質問に回答するのは、小磯花絵さん。(あっ、執筆者一覧によると同研究所<教授>とありました。失礼)

 答えには「あのー」などの<場つなぎ表現>が話し言葉の中に多い場合の、意外な調査結果が書いてあります。へー、そうなんだ。と、目からうろこ。具体的にはお読みください。

 さらに<場つなぎ表現>は、時間稼ぎだけではないとして...

 例えば窓を開けてほしいと人に頼む場合、「窓を開けていただけないでしょうか」と「あのー、窓を開けていただけないでしょうか」を比べてみましょう。前者は少し唐突な感じがするのに対して、「あのー」と場つなぎ表現が一つ入るだけで「お忙しいところ申し訳ないのですが」といった話し手の心情が伝わり、相手に負担を強いる依頼を和らげる効果が感じられないでしょうか。

 うーむ、なるほど。ほぼ無意識に自分も連発する「あのー」に、これほど多様な機能、繊細な心理背景を読み取るのかと、やや感動。また昔、やたら「あのー」「そのー」が多くて話が進まない後輩に感じた苛立ちを反省したり。思いやりに欠けた先輩でした。申し訳ない...。

 こんなふうに、素朴でときに意地悪な多くの質問に、専門家の皆さんが答える形式です。質問もテーマ別に6章に分けられ、退屈しない構成。最後の章には「むかしの落書きにはどんなことが書かれているのですか」という質問があり、その答えなどしみじみ心に沁みたりもします。

 言葉は面白いなあ。

                     

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