ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

電 話

 電話が鳴ることに、いい思い出がありません。

 最前線の新聞記者だったころは24時間、たとえ明け方であろうと電話(あるころからは携帯電話)が鳴りました。事件発生か、事故か、あるいはそれ以外の何か。強大な力を持つ政治家が亡くなったとか、自然災害などです。

 「もしもし」と、夜中に聞こえてきたのが担当する警察署の副署長の声だったら、瞬時に方向性が定まります。事件か事故。わざわざ記者に知らせてくるからには、死者が出ている。そして、発生から少なく見積もっても、既に1時間は過ぎているだろう、と。

 横で寝ている子どもを起こさないよう、概要を聞きながら部屋を出て、幾つか問いただし、最後はこうです。「現場がどこか、もっと詳しく!」。なにしろ次にわたしがしなければならないのは、着替えてカメラとノートを持ち、現場に向けてアクセルを吹かすことなのだから。副署長の方も(警察組織において所轄署では、副署長がマスコミ対応の窓口なのです)、そんなわたしの事情は百も承知です。

 カーナビなんて優れもの、当時はなかった。

 夜道を運転して住宅地図見ながら、携帯から社の当直記者に概要を入れます。(今は運転中のスマホは禁止です!。もちろん)。当直記者は電話を受けて、ぐっすり眠っているであろう同僚たちを叩き起こしてまで、現場に応援に向かわせるべきかどうか判断します。次に、これは部長や編集局長に即座に情報を上げるべき事案か否か?。

 後年、わたしは編集局長をしたので身に沁みているのですが、夜に局長まで情報が上がるとは、よほどのことです。だから電話にいいことがないのは取材の現場を離れても同じで、むしろ深刻な内容が多い。

 こんな体験を積み重ねれば、電話とは不吉なもの。できるのは、少しでも慣れることだけです。

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 あれ、こんなこと書くつもりではなかったのに。

 先ごろ、家の固定電話が鳴りました。これが鳴るのは何かのセールスか、かみさんの実家からしかありません。

 「お腹が痛くて苦しい。近所のお医者さんに胃炎だと言われて薬もらったけど、効かない」

 義母からでした。すぐにかみさんが車で急行し、大きな病院へ。CT検査をして緊急手術。腸捻転で、一部が壊死寸前でした。

 90を過ぎた義父は家で、認知症で寝たきり。88の義母は週3日のデイ・サービスとヘルパーさんの手を借りながら介護し、かみさんも週に3、4日は実家に行って手伝っていました。その頼みの綱の、義母の入院と手術です。

 気丈な人ですが、たくさんの疲労が積み重なっていたのだと思います。かみさんが実家に泊まり込み、義母のことで病院に行く間はわたしが留守番と介護。そして、できるのは買い物係です。あとは昔の家なので寒いから、この際に隙間風が入るところを全部DIYで塞ぐとか。

 1本の電話から突然、いろいろなことが始まる。ああ、昔も今も同じですね。

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