明治の終わりから昭和にかけ、時代の耳目を集めた女性としてわたしがまず思い浮かべるのは柳原白蓮です。<大正の三美人>と称された一人で、歌人。父は伯爵という超エリートの血筋。
波乱にみちた生涯については、林真理子さんの「白蓮れんれん」(集英社文庫)ほか何冊もの本があり、かつてNHKの連ドラにも登場して人気を博しました。
wikiより
他にも与謝野晶子、平塚雷鳥、阿部定などさまざまな名前が思い浮かびますが、<知る人ぞ知る>かもしれないのは東京・新橋芸者の照葉。
絵葉書(今ならブロマイド)のモデルとしても人気を博し、販売元は「写真を修正する必要がないのは照葉だけ」と言ったとか。
瀬戸内寂聴さんが小説「女徳」のモデルにし、後に出家して俗世間から離れた照葉の生き様は、瀬戸内さん自身とも重なります。
で、それはどんな人?。という疑問に答えるため、以下はwikiからです。
<高岡 智照(たかおか ちしょう、1896年4月22日 - 1994年10月22日)は、新橋の人気芸妓から、のちに京都で尼僧になった女性。芸妓時代、情夫への義理立てに小指をつめたことで有名になり、その美貌から絵葉書のモデルとしても人気を集めた。海外でも"Nine-Fingered Geisha(9本指の芸者)"として知られる。瀬戸内寂聴の小説『女徳』のモデルにもなった。本名は高岡たつ子(辰子)。芸妓時代の名は千代葉、照葉。>
wikiより
伯爵家の令嬢だった白蓮に対し、照葉は奈良の田舎で叔母の田楽屋を手伝って育ち、12歳で父に芸妓として売られた女性です。自ら剃刀で小指を切断し、血に染まった指先を、呆然とする男の掌に置いたのは14歳のとき。
「朱より赤く 高岡智照尼の生涯」(窪美澄、小学館)は、史実に基づいて高岡智照(照葉)の生涯を描いた新刊。もちろん内容に興味があるから書店で手に取ったのですが、レジまで行くようわたしの背中を押したのは本の装丁、装画が気に入ったからでした。
鉛筆か木炭か、モノクロでざっくり描かれた色街の絵。若い芸妓がこちらへ歩いてきます。つい、フォルムを掴む筆さばきや明暗の流し方に目を奪われました。タイトルの『朱より赤く』だけに色が入り、その対比がなんとも鮮やか。
ああ、これでは書評になってないなあ... 。
38歳で尼僧になった元芸妓・照葉、高岡智照尼の凄まじい生涯に立ち向かうには、書き手の方にも覚悟が必要なはずです。
窪さんは以前に「ふがいない僕は空を見た」(山本周五郎賞)を読んでいて、その力量と、読者であるわたしとの相性について、ある程度予想がついてもいました。だからどんな小説に仕上がっているのか、作家とモデルの対決が楽しみでした。
結論を言えば、静かに一気読み。
同時に、照葉の生涯を描き切るには、この倍のボリュームがほしかったとも感じました。