ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

日日雑記

ゆっくり逝こうぜ(タイトル借用です)

今日から3月に入り、いろいろと身辺に区切りがつきました。 一つは新聞のコラム。週1本といえども疲れが溜まり、早々に引退したいと以前から告げてありました。長く在籍した会社からのオファーなので執筆を引き受けたものの、3年目に入ったころから息切れが…

雪見酒

桃の節句も近いというのに、わたしの住む地は大雪警報発令中です。家に籠るのが一番...なのですが、こんな日に限って朝から仕事の打ち合わせが入っていたため、昼まで出かけていました。 朝食前に、駐車場の雪かきでひと汗。時間に余裕を持って車で家を出る…

追悼 西村賢太

私小説作家、西村賢太さんが亡くなりました。私は決して、西村さんの熱心な読者ではなかったので、タイトルに<追悼>と冠するのはおこがましいのですが、以前から現代の文学シーンにおいて特異な存在感を発する作家だという実感があり、突然の死は驚きでし…

まっくんとわたしの歴史

典型的な私立文系人間のわたしが、パソコンに出会ったのは、1990年代前半でした。会社のデザイン部門にマッキントッシュ・コンピューターなるものが導入され、新し物好きのわたしはときどき遊びに行って、いじくっていました。 そのうち、ハマってしまいまし…

くーの兄弟犬、ピースのお話

一昨年11月に逝ったうちの愛犬・くーには、ピースという兄弟犬がいました。 くーはイエローでしたが、ピースはブラックのラブラドールでした。よくブラッシングしてもらっていたのでしょう、見事に艶のある黒。3世代が暮らす広い屋敷に飼われていました。 ピ…

最近の<マイ・ブーム>

仕事始めの日になって、いまさらですが 明けましておめでとうございます。 個人的には比較的静かな年末年始でした。大晦日は、部屋にこもって絵を描きながら正月を迎えました。このところ空いた時間には、本を読むより油彩に集中してリフレッシュしています…

古日記、古本 〜みなさま良いお年を

俳句には季語が織り込まれている。 芭蕉の句も、雪山を眺めて隣のおじさんがひねった作も、巡る季節の一断面を詠んでいる。名随筆を遺した物理学者・寺田寅彦は、日本の春夏秋冬が見せる表情は多種多様で、これが私たちの感性を育み、文芸として発展したのが…

クリスマスイブの夜

今年のクリスマスイブはわたしにとって、単に残り1週間になった2021年のカウントダウンが始まる日です。数日前、ある手書きの自伝原稿前半がどっさり届きました。今日も半日、その原稿を読み込んでいました。 来年1月半ばまでに、必要なところに手を入れて整…

電 話

電話が鳴ることに、いい思い出がありません。 最前線の新聞記者だったころは24時間、たとえ明け方であろうと電話(あるころからは携帯電話)が鳴りました。事件発生か、事故か、あるいはそれ以外の何か。強大な力を持つ政治家が亡くなったとか、自然災害など…

カレンダー 

あの葉がすべて落ちたとき、わたしの命も消える...は、よく知られたO・ヘンリーの名篇「最後の一葉」です。うちは11月末、庭のソメイヨシノに残っていた最後の一葉が散りました。月がかわり、トイレに掛けてある小ぶりなカレンダーは、最後の一枚を残すのみ…

ホキ美術館について

4日間にわたり、仕事も放り出して、愛知から東京へと回ってきました。そして帰り着くと、<国境の長いトンネルを抜けると雪国であった>...とまでは言わないけれど、北陸は冷たい雨が降る冬の始まりに変わっていました。 必要があっての遠出。そこに組み込ん…

春乃色食堂

山から雪の気配が漂い始める北陸の晩秋。色鮮やかな落葉が終わったころ、枝先に残る木守柿が、ぽっと火を灯したように目に入ります。 今日、些細な仕事で山沿いにある小さな町に出かけました。用事を終えると、冷たい雨が上がっていたので街中をぶらぶら歩き…

お絵描きの近況

先月から、油の絵筆を持ってF10のキャンバスにしこしこ再開しました。下塗り段階で、今は大まかな色のイメージを固めているさ中です。描いているのはモズの巣。地元のバードウオッチセンターに展示してあるのです。 今はこんな具合ですが、これでは抽象画み…

秋 深まり

庭のキンモクセイが香り、思わず深く息を吸ってしまいます。ソメイヨシノは紅葉から落葉へ。萩は花期が終わり、名残の花びらが日差しを浴びています。 わたし、もしかすると読書以上に手間暇かけているかもしれない草木の世話。今日は風も心地よいので、拙宅…

車飛ばして美術展へ... 林忠正のこと

昼から天気が崩れるという予報を見て、朝から隣の市にある美術館へ車を走らせました。車の運転は、やはり青空の下がいい。「高岡で考える西洋美術ー<ここ>と<遠く>が触れるとき」(国立西洋美術館、高岡市美術館など主催)という企画展が気になっていて…

三島由紀夫 〜作家つれづれ・その5

<既視感>という言葉があります。初めて訪れた地なのに、いつかどこかで、この景色を見たことがあるような。もし過去に本当に見ていたのなら、そこは初めて訪れた地ではないのだから、これはそもそも矛盾で成り立つ感覚です。 本に当てはめるなら既読感とで…

冲方さんと千年前の女性たち 〜作家つれづれ・その4

冲方丁(うぶかた・とう)さんの新刊「月と日の后」(PHP)を読んでいます。読了していないので、作品レビューを書くのは後日にするとして、今は趣の赴くままに...。 一昨日から息子と2歳の孫の男の子が帰省していて、振り回されていました。幼い瞳は、なん…

すくすく伸びる命について

昨年秋に、剪定したツルバラの枝を1本、挿木して部屋に持ち込みました。 幸い根が出て、冬に芽を伸ばし始めました。肥料と水管理に気を配り、大きな鉢に2回の植え替え。たった1年で、ここまですくすく伸びた命の力に驚くばかりです。 昨年の冬 今年5月ごろ 2…

常夏の氷 秋風が吹いて栗 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その5

わたしの住む地、9月になったとたんに涼しくなり、いや、肌寒いほどでした。夜になって、外からは激しい雨音。 「もう栗が出回っているのか」と、スーパーで栗を見かけたのが8月最後の昨日のことで、帰宅して水に浸しておきました。今日の夕方から鍋でことこ…

「旨い」と「美味しい」 〜「食卓のつぶやき」その他、池波正太郎

歴史学者で考古学者の松木武彦さんが、駅弁について書いたエッセーがあります。松木さん曰く。昔、ディーゼル急行の固い座席で割り箸を使った高松駅の駅弁は、どうしてあんなに旨かったのか?。 言われてみれば確かに、冷えた幕の内弁当がレストランで出てき…

つい... 焼き茄子の味噌汁

ときには、こんな雑記もいいか。....と。 お盆に墓参りした際に、亡き母の実家に立ち寄り、いただいた茄子。茄子は年中ありますが、やはり夏。 晩飯前。急がず、ゆっくり、しっかり焦げ目を付けました。そのうち水分がじんわり滲み出てきて。 焼いた半身の茄…

<美味しい>小説、についての覚え書き

お盆前から池波正太郎さんの「剣客商売」(新潮文庫、全16冊)を読み始めて10日ほど。14冊目に入って、残り3冊になると、ちょっと名残惜しいような。 わずか10日ほどとはいえ、ずいぶん日も短くなり、午後6時半を過ぎると夕闇が迫ってきます。戻り梅雨のよう…

ネット、プチ断食の日々

30年近くにわたる、筋金入りのMac党であるわたしは、メーンの机にはノートパソコン(MacBook Air)、サブ机にデスクトップPC(iMac)、枕元のタブレット(iPad)、そして日々持ち歩くのはiPhoneです。 改めて考えると、長い年月に渡って、画面の向こうの世界…

白い雪と青い海

家から5キロ余り、1時間ほど歩くと海に行き当たります。東を臨むと、青い日本海の向こうに、雪を頂く北アルプス・立山連峰が広がっています。 遠望する雪の白は、夏の訪れとともに下から消えていきますが、どんな猛暑でも上には残り続けます。山脈の深い谷に…

雨上がりの散歩道 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その4

山の麓にある観音堂に続く道を歩きながら、心の底が抜けたような、静かな開放感に包まれました。梅雨の雨上がり。 家から車で40分ほどの、真言宗の古刹です。地元の写実画家さんの企画展に出かけたついでに、足を伸ばしました。前回この参道を歩いたのは、一…

本屋さんに行って、ぐったりする理由

こんなブログを書いているくらいなので、本屋さんに行くのは好きです。そして、毎回けっこう疲れます。 平積みされた新刊本の山々、店の奥まで何列も並ぶ本や雑誌。目を凝らしてその中を行き来し、手に取り、また進む。物色するわたしの心の中にあるのは、「…

初めてのバラ一輪 そして紫式部など 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その3

昨年の今ごろ、庭のツルバラを剪定したとき、元気な枝を1本、小さな鉢に挿しました。 雨風が当たらないよう、鉢は部屋に入れて窓際に置きました。根が出たようで、秋には枝から芽が。 4月に大きな鉢に植え替えて外に出し、蕾が付き、日々膨らむのを楽しみに…

不倫の大絵巻 いよいよ佳境に 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その2

体調がすぐれないため、祈祷をしてもらおうと出かけた春の山寺で、光源氏は10歳ほどの女の子を見かけます。 女の子は扇を広げたような黒髪を揺らし、赤く泣き腫らした顔。育ての親である祖母の尼君を見つめて必死に訴えるのです。 「雀の子を、犬君(いぬき)…

つれづれに楽しむ 紫式部変奏曲 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳

5月の連休明けから、のんびり読み進めているのが「源氏物語」(瀬戸内寂聴訳、講談社)です。紫式部の「源氏物語」は54帖、今風に言うなら54話で構成された大長編ですが、瀬戸内さんの現代語訳では全10巻。 「さあ、読破するぞ!」などと意気込んでは挫折必…

<濃厚接触者>になって思ったこと

「発熱した。PCR検査の結果は明日だけど、もし陽性だったら、お前も新型コロナの濃厚接触者になる。申し訳ない」 結果から言ってしまえば、わたしは感染していませんでしたが、つい先日まで<濃厚接触者>でした。 知人から連絡をもらって、とっさに思ったの…