「発熱した。PCR検査の結果は明日だけど、もし陽性だったら、お前も新型コロナの濃厚接触者になる。申し訳ない」
結果から言ってしまえば、わたしは感染していませんでしたが、つい先日まで<濃厚接触者>でした。
知人から連絡をもらって、とっさに思ったのは「なんと!」。次に「とうとう来たか」。
現在の日本の状況を眺めれば、新型コロナがどこから迫ってきても、なんの不思議もないと思っていたからです。
「仕方ないさ。で、具合どうなんだ?」
「38度くらいの熱と、背中の筋肉が痛い。肺炎はないと思う。発症前の行動を聴き取りされたから、もし陽性なら、こちらの保健所からそっちの保健所に連絡がいくことになる。すまない」
彼はうちの夫婦共通の知人で、愛知県に住んでいます。こちらの出身で、老いたご両親はうちの隣の市に暮らしていらっしゃいます。家の事情があって短期帰省したのですが、出発前に自費でPCR検査を受け、陰性を確認していました。
正確と言われる唾液のPCR検査でも、精度は90%程度ということですから万全ではありません。特にウイルスの増殖がまだ少ない感染直後に検査した場合、どの程度の正確性で判定してくれるのか、素人ながら<?>が頭をよぎります。
とにかく、彼の体内に侵入していたウイルスは、事前のPCR検査をすり抜けていたのでした。
彼は愛知に戻った翌日に発熱し、陽性判明は翌々日。さらにその次の日には、こちらの保健所からスマホにコールが来ました。
彼の濃厚接触者は、軽くアルコールを飲みながら会食したうちの夫婦2人。そして彼のご両親を合わせた計4人でした。
<濃厚接触者>とは、感染者に発熱などの症状が出た2日前に遡り、その日以降に一定時間以上の接触をしていた人が該当します。
わたしが一番気になったのは、濃厚接触者になった自分の<濃厚接触者>です。接触時点では自らの感染を疑っていないので、防ぎようがありません。
連絡から2日過ぎても体調に異変はなかったので、もし陽性であっても、無症状のわたしはその時点で、過去に濃厚接触者をつくっていないことになります。これはかなりほっとしました。
幸いにもPCR検査の結果は、4人とも陰性。それでも保健所からは、2週間の自宅待機と1日2回、体温を測るように言い渡されました(マスクをして、接触を避けての買い物程度はok)。
その後2週間、保健所から毎日定時に電話があり、体温に加え、何か症状が出ていないか確認されました。保健所は感染者はもちろん、全ての濃厚接触者をこんなふうにフォローしているわけですから、大変な作業だと思います。
一人当たり、無症状もしくは軽症感染者、濃厚接触者を何人担当しているのか。しかも日々、新しい感染者が出でくる。
わたしの住む地域は、1日の新規感染確認が10〜20人程度だからなんとか頑張れるのでしょうが、もっと多く、3桁以上の数字にもなると濃厚接触者の数も鼠算のことく増えるはずで、保健所業務は半分まひした状態だろうと容易に推測できます。
地域によっては、医療現場が崩壊の瀬戸際にあるだけでなく、その前段階の感染追跡とフォローも崩壊寸前、もしくは崩壊状態なんだろうなあ。
心の底から、新型コロナと闘っているみなさんに頭が下がりました。短期決戦ならともかく、もう1年を軽く超えた長期戦を闘い続け、しかも未だゴールがくっきり見通せないのですから。
わたしたちにできるのは、やはり感染に注意すること。それが闘う現場を助ける最善のことなのだと思います。
普通の生活に戻っているわたしは今日、地元の埋蔵文化財センターの新規企画展で土器や石器を眺め、その足で美術館の巡回展にも行ってモジリアーニやピカソを見てきました。
愛知の彼も現在は、職場復帰しています。