ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

鮮やかな逆転劇、そして 〜「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤

 いま旬の一冊が、発売後すぐにベストセラーになった「ノーサイド・ゲーム」(池井戸潤、ダイヤモンド社)です。鮮烈な逆転劇、信頼していた人物の離反や敵対者が実は理解者だったなど、他の池井戸作品と共通する要素がいっぱいで、ファンにとっては「そこがいい」となるのでしょう。期待を裏切らない1冊、初めて読む人には新鮮な面白さかもしれません。

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 大手自動車メーカーの経営戦略室のエリートが、社内対立に巻き込まれて横浜工場総務部長に左遷されます。工場には社会人ラグビーの古豪(つまり名門だけど、成績低迷)チームがあり、彼はゼネラルマネージャーも兼務することになります。

 チーム立て直しが急務なのですが、このあたりはふと「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの 『マネジメント』を読んだら」を思い出しました。古い体質を残す世界に、スポーツの素人が経済理論と経営戦略を持ち込んで再構築する趣向が似ています。

 ただし「ノーサイド・ゲーム」は、1本のストーリーだけで進むのではありません。

 多額の運営費を必要とするチームは、取締役会の権力争いの道具にもなり、存続をめぐって揺れ続けます。ラグビーストーリーに、大企業の生臭い権力争いが併走することで、面白さに奥行きが生まれます。権力争いとはかくも醜く凄まじいかと、ため息をつかせるあたり、池井戸ワールド全開でしょうか。

 作品を読み終えれば、「ノーサイドの精神」に向かってすべてが収斂する物語だったと気づきます。タイトルそのものですね。ノーサイドの精神とは、まあ、小説の中でお読みください。終盤の盛り上がり、作家としてのノーサイドの笛の響かせ方は見事です。

 予定調和の世界ですから、途中「そんな上手く運ぶはずないだろ」とか「出来すぎじゃない」と、引っかかりを覚える方が、もしかするといるかもしれません。しかし、この小説は楽しんだほうが勝ち。存分に楽しんで、明日への元気をもらいましょう。