ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

ドタバタに笑い、じんわり胸にきて.. 〜「赤めだか」立川談春

 春から50号のキャンバスに風景を描き続けて、一向に完成のめどが立ちません。心のエネルギーと時間を、延々と費やしています。

 わたしの場合、何時間も一心不乱に描き続けることは到底できません。細部まで妥協しない写実を目指していると、こんをつめて筆を使います。30分も描くと集中力が持たなくなり、はあー。と、息を吐いて暫時休憩。この休憩中のリフレッシュに、重宝しているのがエッセイ本です。

 小説は、よろしくない。面白かったりすると、絵を忘れて一気読みモードに入ってしまう。暫時休憩が、暫時で終わらなくなります。それでは「本末転倒」で、この場合の「本」は絵で、「末」は本(小説)なのでややこしい。

 他方、評論のようなやつは気分転換のつもりが、かえって疲れてしまうので不適切。一編一編が短く、肩の凝らないエッセイ、随筆がぴったりなのです。

 そんなあれこれの中、最近出色だったのが「赤めだか」(立川談春、扶桑社文庫)でした。落語家・立川談春さんが修行時代を振り返った、ドタバタと試練に充ちた青春の軌跡。弟弟子、兄弟子の姿も生き生きと瞼に浮かび、落語という庶民に身近な伝統芸能の世界での成長物語です。

 読み進むほどさすが落語家、笑わせてくれて、しかも胸に沁みる。そして、天才と言われた師匠・立川談志の存在。エッセイ全体が破天荒な談志ネタをバックボーンに成り立っているので、改めてその芸と人生を調べたりしました。

 この本、2008年の講談社エッセイ賞を受賞したのもうなずけます。談春さん、そこいらのモノ書きよりよほど上手い。そして落語に特別な興味がない人でも十分に楽しめると思います。

 談春さんは1966年東京生まれ。17歳で立川談志に入門。いま「もっともチケットの取れない落語家」の一人と言われ、俳優としても活躍しています。兄弟子に志の輔さんがいて、談志門下は異才が多いなあ。

 

 絵については現状報告をかねて後日、記します。

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