「ノーマンズランド」(誉田哲也、光文社文庫)を読みました...と書くと、すかさず「おいおい、前回こんなの4冊買いましたと、なんだかんだ言ってたのと違う本じゃないか!」と突っ込まれそうですが、はい、違うのです。申し訳ありません。まあ、寂れたブログだから細かいことは気にしなくていいか^^;。
出番待ちをする楽屋女優のように、整理の行き届かない机上には<積読本>が控えていて、その複雑な順番を無視し、気分でつい読み始めたのがこの本でした。誉田さんの警察小説はわたしにとって、面白さにかけては<品質保証>の安心感があり、映画を見て気分転換する感覚に似ています。
姫川玲子。警視庁刑事部捜査一課の長身&美形刑事。何度も事件の修羅場をくぐった30代の妙齢で、捜査に関して独走傾向あり。いやはや、男に対しては水戸黄門の印籠みたいに効能が分かりやすいヒロイン設定です。
ちなみに一課は、殺人などの血生臭い犯罪を扱う部門で、普通の人は被害者・加害者どちらの筋からも一番関わりたくないところ。警察にはほかに暴力団とお付き合い?する課、詐欺や汚職を地道に調べる課、あるいは過激派やカルト集団に備える課、などなど...。大病院の診療各科みたいな、さまざまな捜査専門家の集合が警察組織です。
わたしたちになじみがあるのは、交番のおまわりさんが所属する地域課や、違反切符を切られてかっとなってしまう交通課あたりでしょうか。
さて、華やかなヒロインに欠かせないのは、暗い陰。これがまた彼女には幾つもの深い心の傷があって、捜査行動を左右します。見えない傷に秘かにうめきつつ、苦悩は美貌のうちに秘めて殺人犯を追い詰め、しかしそれゆえに捜査の本道をしばしば踏み外して恐ろしい闇に入り込んでしまう...。
なんとも、書いているわたしが苦笑いしたくなります。でもこうしたステレオタイプ的な設定は、小説であれ水戸黄門であれ、骨太の強さと人気があります。
ただし、作家に力量がなければ、作品は安っぽい書割画か、昔の銭湯の富士山の絵みたいになってしまう。
そして世の中、書割画がいかに多いことか。ところがこの小説のヒロイン・玲子ちゃんと脇役たちは見事に<生きて>います。組織を描いて、人を描いて、その手腕はなかなかにさすがなのです。
小説の始まりは、昔の体育会系高校生男女の淡い恋愛話から。一転、東京都葛飾区のマンションで女子大生が殺され、本庁捜査一課の姫川班が、所轄署に立った捜査本部に合流します。ところが浮上した容疑者は、別の殺人事件で違う署に逮捕されてしまい、なぜかそこからの情報が遮断されて全く出てこない。
二つの事件解明を縦糸に、実はこちらが本筋かという20年前の女子高生失踪事件が絡み、途中までは「いったいこれ、どう収束させるの?」の世界。やがて北朝鮮の拉致や憲法9条の問題まで突きつけられるし。
今回の場合、ヒロインを食いそうなくらいの存在感を持ち、残虐で純情さが際立つのは真犯人です。玲子ちゃんも最後は彼に涙するし。
詳しくは「ノーマンズランド」をお読みください^^;。
姫川玲子シリーズは「ストロベリーナイト」から始まって、これが9作目です。なに、最初から読まなくても各巻、どれでも単品で十分に楽しめます。