ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

一気読みのハードボイルド 〜「蒼の悔恨」「青の懺悔」堂場瞬一

 <ハードボイルド小説>に明確な定義があるのかどうか知りませんが、個人的には「生き方に極めて強いこだわりを持つ男が主人公で、試練を乗り越えた後に深い心の傷を負っても、生き方を変えることができない。その事実を最後は淡々と記述した物語」ということになるでしょうか。

 「蒼の悔恨」「青の懺悔」(堂場瞬一、PHP文庫)は、そんなわたしのハードボイルド観のど真ん中にはまる2作でした。

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 「蒼の悔恨」の主人公は、連続殺人犯を追う神奈川県警捜査一課刑事。犯人に刺されて瀕死の傷を負い、捜査から外されます。コンビを組んだ若い女性刑事も傷を負った右手が麻痺したまま。ところが県警内で<猟犬>と呼ばれる彼は、まだ手負いの状態で一人、犯人を追い始めます。

 この「入り」からして、ハードボイルド感が満載ですね。しかも彼、独身の一人暮らしのくせに妙に料理に凝り、刑事(公務員)のくせに BMWに乗り(中古のローン購入)、車内ではある分野のロック音楽にこだわるという変わり者。

 こういう人物造形、嫌いではありません。たとえわたしがBMWには興味がなく、音楽がグールドのピアノ以外ほとんど聴かないにしても。一人の人間というものの「こだわり」に、共感できるからです。

 なぜそこにこだわるのかーと聞かれても、彼は答えようがないでしょう。それは「なぜお前は人間のかたちをしているのか」と問われて、答えようがないのと同じだから。

 個性的な人物たちの登場、ヒロイン(ネタバレですが負傷した女性刑事)との関わりなど、フィクションとして楽しめます。というか、楽しんだ方が勝ち、ですね。

 次作「青の懺悔」で、彼は事件後、県警に辞職届を出した私立探偵として登場します。今回は、メジャーから日本球界に戻ったプロ野球選手の息子が誘拐される展開。一人息子を誘拐された選手夫妻は彼の高校時代の同級生で、過去が誘拐事件に大きな影を落としています。前作で登場した人物たちもしっかり役割を果たします。

 2作の舞台は横浜。動くのは警視庁でなく神奈川県警。中華街があり、情報提供者たちが大きな役割を担い....。

 堂場さんは多くの警察小説を書いていて、イメージで言えば警察小説、あるいはスポーツ(野球)小説なのですが、この2作については強く「ハードボイルド」を意識した作品だと思います。舞台を横浜という街に設定したことを含めて。

 もしかするとハードボイルドというのは、細部への、自分だけのこだわりの強さなのかもしれません。自分なりのレシピとか、音楽とか。細部へのこだわりが、そのまま女性との向き合い方や、生き方なのだから。