ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

深すぎる断絶 そして再生の物語 〜「流浪の月」凪良ゆう

 読み終えて浮かんだのが「ずっしり残る、不思議な作品」という、何を伝えたいのか自分でもよく分からない言葉でした。「流浪の月」(凪良ゆう、東京創元社)は2020年の本屋大賞受賞作。本屋大賞は読者の期待をほぼ裏切らないので、実は芥川賞や直木賞より楽しみにしていて、今年も<当たり>でした。

 ページをめくると、心の動きや状況描写が丁寧かつ的確なので(センスいいなあ!)、<読む>という行い自体を楽しめました。ストーリーはときどきハラハラもさせてくれますが、基本的には落ち着いた作品です。では、いったい何が<ずっしり>で<不思議>だったのかー。

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 9歳の更紗(さらさ)は叔母の家に引き取られ、息を詰め、ある不幸に耐え、自分の思いを殺しながら日々を送っています。雨の公園で、更紗は「ロリコン大学生」に付いていき、彼の部屋に暮らして苦しみから解放される2カ月を過ごします。

 大学生が逮捕されて更紗が保護されたとき、マスコミやネットは「幼女誘拐事件」として一気にヒートアップします。こういう場合に被害者や加害者がネット上でどんな扱いを受けるか、その烙印が「デジタル・タトゥー」として一生ついてまわることは、誰しも想像がつきます。

 作品のポイントの一つは、更紗にとって自分は「被害者」ではなく、大学生は「庇護者」だったこと。大人になっても被害者・更紗には様々な気遣いが示されますが、善意は救いようもなく彼女の孤独を深めます。自分にとっての真実を訴えても、相手は引いてしまうか、心を病んだのだと哀れみを覚えられるだけなのだから。

 大人になった「被害者」と「犯人」が、再び出会うことで物語の後半が動き始めます。しっかりした筆致で描き出される人間関係は、ごく当たり前(わざと重々しく言えば普遍的)であると同時に、やはり「現代的」なのでしょう。犯人である青年の視点からは、それまでの家庭内での断絶の物語も絡みます。

 現代のネット社会がどこまでも当事者を縛り続けるとき、未来にどんな地平を拓くことができるのか。これまでなかった人と人のつながり方が見えて、具体的には作品をお読みください^^。

 本作をすでに読んだ人から「面白い、でもちょっと暗い」という話を聞いていましたが、なるほどと思いました。そして「ちょっと暗い」面を掘り下げようとすると、とんでもない迷路に迷い込みそうです。

 読後、外の空気が吸いたくなって庭に出ると、時節がらあちこちに雑草が目につきました。作業着に着替えて黙々と除草。丁寧に時間をかければ、その分だけ庭がきれいになる、リアルな分かりやすい作業に熱中してしまったのは、「流浪の月」を読んだ心の反作用だったのかもしれません。

 手を汚して草を抜きながら、小説に感じた<不思議>について思いを巡らせたのですが、とうとう、きっちりと当てはまる説明を見つけることができませんでした。

 凪良ゆうさんは、初めて知った作家さんでした。本のカバーによると、それなりのベテランで「BL作品を精力的に刊行」とあり、デビュー10周年で「非BL作品『神様のビオトープ』を発表」とあります。ん、BL作品??。

 さっそく用語を検索。BL=ボーイズ・ラブ。男と男の恋愛。それってホモ・セクシャルとどう違うのだろうーなどど考えるわたしは、どうやら時代の先端から周回遅れのようです。