「本を読みたくないときに、読みたくなる本」が、わたしにはあります。謎かけみたいになりましたが、精神的な疲労感を引きずって読書はもちろんのこと、仕事にも前向きになれないとき、リセットしてくれる本のことです。
いわゆる「ブンガク的」感性や知的に訴えてくる本は疲れるのでNG。理屈抜きで「楽しめる」または「面白い」ことが必須条件です。わたしにとって堂場瞬一さんは、そうした状態にあるとき手に取りたくなる貴重な作家。多作なので、読んでも読んでも新刊が出てくるし、外れが少ないのもすごい。
「迷路の始まり」(堂場瞬一、文春文庫)は、ラストラインシリーズ3作目にして文庫書き下ろしの最新作。と書いても、堂場さんを未読の方には「?」ですね。52歳、妻と別居中、女子高生の娘ありの刑事が主役。通り魔の犯行かと思われる殺人事件を捜査するうち、得体の知れない犯罪組織が立ち現れてくる警察ものです。
この小説の面白さは、謎を追いかけるほど新たな謎が現れて、小さなピースがはまるほど、逆に全体図や大きさが曖昧になってくる展開にあります。いったん嵌ってしまうと、一気読み。ということで、焼酎を飲みながら夜中の2時までページをめくり続けました。
ほろ酔いと心地よい読書疲れを覚え、あとは熟睡して寝坊。...の予定だったのですが、歳のせいか早々に目が覚めてしまうのが悲しい。いや、これは脱線。
本筋の展開はもちろんですが、捜査方針を巡る警察組織内部のせめぎ合いも読ませます。堂場さんの小説はどれも、この点がしっかり呼吸を掴んでいて、新聞記者の駆け出し時代に新潟県警取材で揉まれたのだろうなあ、などと思ったり。
もう一つは美味そうな食べ物がさりげなく、きっちり出てくること。昔ながらの喫茶店のナポリタンとか、狭いとんかつ屋とか、捜査で靴底を減らす街の描写にマッチさせて書き込んであるので、つい食べたくなります。この点も、わたしに元気を与えてくれる要素の一つでした^^;。
堂場さんをかなり読んでいる人なら、他のシリーズで主役を張る刑事が作中の噂話で出てきたりして、思わずニンマリできるかもしれません。
さて、単純な殺人事件の捜査線上に浮かんできた犯罪組織ですが、その全体像は本作ではまだ見えません。タイトルが「迷路の始まり」なので、続編があるのかな?。
しかし一人の刑事、あるいは警視庁レベルでは太刀打ちできないような組織の気配なので、どうこれからカタをつけるのだろう...などと要らぬ心配(期待)までしてしまうのでした。