10代の終わりから20代始めは、ある年齢に達した多くの人にとって、特別懐かしい時期ではないでしょうか。子供ではないけれど、まだ社会に踏み出していない大学時代。生活をぎりぎりまで切り詰め、わたしを東京の大学に出してくれた両親に今は感謝しかありませんが、既にどちらもこの世にいません。
昨年末に注文し、新年早々届いたのが「高田馬場アンダーグラウンド」(本橋信宏、駒草出版)です。2日で読了したのですが、ブログにどう書くか、そもそも書くかどうか、一昨日から寝かせていました。書くとなれば、個人的な事情や記憶(というより感傷か)に流れてしまうのが目に見えていたので。
本のカバー写真は山手線の電車、高田馬場駅前の広場、BIGBOXを俯瞰した夜景のショット。ふと、写り込んだロータリーの人びとの中に自分を探してしまう。いや、わたしがその光景の中にいたのはもう40年も昔だった...。
東京都新宿区の一角、高田馬場から早稲田にかけての一帯に、どんな人たちのどんな生き様が刻まれてきたのか。本の冒頭はいきなり、
高田馬場には青春の屍が埋まっている。
駅前にそびえ立つ巨大な石棺のような複合型ビル・ビッグボックスは、過ぎゆく青春を追悼する墓碑銘だ。
と始まります。
もし他の本、別の場所の記述だったら、わたしはこの書きっぷりにのっけから苦笑いするか、ため息をついて読むのをやめようかと迷ったはずです。ところが、これを普通に読んでしまうからまずいw。
さて、本は高田馬場と早稲田で人生の一時期を生き、交錯した人びとの歴史を辿るのですが、タイトルに「アンダーグラウンド」とあるように、表ではなく裏の歴史エピソードです。登場するのは手塚治虫、江戸川乱歩、かぐや姫の名曲「神田川」の誕生秘話、マンションで殺害された人気女優、ビニ本や自販機本(つまりエロ本)が量産された<ヘア・バレー>としての歴史など。
次々に登場するひたむきで、愚かな若者たちの群像がどこか懐かしい。死んだ人、社会的に成功した逆転人生の現役有名人、そして高田馬場から消えて今はどうしているのかようとして知れない多くの人々。
体験をベースにしたルポなので、ライターとしての個人的な歩みが絡んだ読み物になっています。ちょっとその部分で、力み過ぎかなという構成もあるのですが、本橋さんにとって特別な土地が、高田馬場と早稲田だということは伝わってきます。
喫茶「白ゆり」を始め、早稲田松竹にパチンコ屋やたくさんの飲み屋さんなど、とにかく懐かしい固有名詞がいっぱい出てきて、わたしには「うわあー」。当たり前ですが、一つの店の思い出にしても人の数だけ別バージョンがあるわけで、妙に客観的に自分の記憶を点検できたような、思いがけないすっきり感もありました。
本橋さんの略歴を見ると、わたしと同い年で同時期に早稲田の学生でした。もちろん面識はありません。でもキャンパスか高田馬場か、さかえ通り(馬場の歓楽街)あたりで何度かすれ違っていたかも。
まあ、それはどーでもいいけどね。