ことばを食する

本たちとの、出会い、すれ違い、言葉との恋愛。つれづれなるまま記していきます

十人十色の個性 短編の楽しみ 〜「短編工場」 浅田次郎他12人

 短編小説の魅力とは何か、と問われたなら、わたしは「一刀彫りの鮮やかさ」と答えます。一本の彫刻刀でざっくり彫り上げる、刃先の鋭さと角度が生み出す面白さ。彫刻でいえば、手とか顔とか、胴体だけとか、ときには指先だけとか目だけとか、一部を大胆に彫り上げて背後に広がりを獲得した作品にひかれます。

 まあ、こんな乱暴な決めつけで短編の魅力すべてを言い尽くせるとは思いません。あくまで、わたしにとってのいい作品ということです。そして読者というのは得てして、ある程度のボリュームを持った小説に目が行きがちで、純粋な短編(連作でないもの)って、思いのほか読む機会が少ないものです。

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 「短編工場」(集英社文庫)は小説すばるに掲載された短編のアンソロジーです。作家さんは掲載順に桜木柴乃、道尾秀介、奥田英朗、桜庭一樹、伊坂幸太郎、宮部みゆき、石田衣良、乙一、浅田次郎、荻原浩、熊谷達也、村山由佳の12人。

 それぞれの個性が出ていて、なかなか楽しめます。未読の作家さんなら「この人はこういう小説書くのか」と、分かった気になったり。一方、アンソロジーなので中には「面白くないな〜」とか「好みじゃない」という短編も交じっているかもです。そこは読み手側の問題なので、仕方ないですね。

 個人的なお勧めは、熊谷達也さんの「川崎船」。小さな船で、命をかけて海に出る漁師の生活が泥臭く描かれ、方言も交えて、息づかいまで聞こえてくるようでした。

 浅田次郎さんの上手さは相変わらず。

 新鮮だったのは村山由香さんの「約束」。小学生の仲良し3人組の、切ないショートストーリーです。村山さん、近年は大人の女の性愛を扱う長編が多かったので、かつての作風を忘れていました^^;。

 集英社文庫にはこのほか「短編復活」「短編少女」(少女を主人公にした作品)「短編少年」「短編学校」「短編伝説 愛を語れば」などのアンソロジーがあります。シリーズ全体に収録されている作家は、故人から現役まで多彩で、未読の作家を読んでみるとっかかりにもなりそうです。

 ちなみに「短編伝説 愛を語れば」に、三島由紀夫の「雛の宿」という短編が収録されています。三島に対してわたしは肯定、否定両方の気持ちがあるのですが、どちらにしても凄い作家だと、その短い作品を読んで改めて思いました。