ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

3姉妹が織りなす京都 〜「手のひらの京」綿矢りさ

 わたしは京都生まれではないし、住んだこともありません。仕事で、旅行者として、何度か訪れた古都。日本の歴史は嫌いでないし、好きな仏像や記憶に残る場所、シーンもかなりあります。しかし、当たり前ですが通り過ぎる者としての視点しか持ち得ません。

 「手のひらの京(みやこ)」(綿矢りさ、新潮文庫)は、京都に生まれ育った三姉妹の日常を描いています。日常と言うと地味な印象ですが、両親と同居する未婚の大人の三姉妹ですから、若い女性らしいそれぞれの個性とドラマがあって軽快に、ときにしっとりと読ませます。

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 四条通り、嵐山、祇園祭、大文字焼、街に響く早朝の修行僧の読経など、子どものころからそばにある日常を舞台に、女の世界がつづられ、男の私としてはしばしば「へーえ、そうなんだ」。長女は結婚の焦りを感じ、次女は会社の陰湿な女社会を蹴飛ばし、三女は京都を愛するからこそ外に出たいと思い。三姉妹が生きる土地・京都が、やはり陰の主役です。

 これは綿矢さんの古里への、大学は早稲田に行ったけれど、やはり京都に戻って根を下ろす古里・京都へのオマージュでもあるのでしょう。京都の中に在る人が見ている風景を、少しだけ分かったように感じました。

 窓からは山から降りてくる澄んだ空気に乗って、涙の気配も運ばれてくる。いま家の近くのどこかで泣いている人がいる、というわけではない。谷の底で長い年月を経ても未だ風化されず微かに残っている、涙の気配が今もなお、まるで誰かが泣いているみたいに生々しく部屋全体に広がっていく。

 ざっくりシャベルで掘れば、政争や戦、処刑で果てた、行き倒れて捨て置かれた怨念と涙が、千年の地層を作る京だから、説得力を持つ描写です。こんな「土地の記憶」が、作品全体に奥行きを与えます。

 ただ、三姉妹の視点から描かれる若い男たちが型にはまっていて、しばしば気になります。女性から見た男はこんな風に類型化されるのかと思う一方で、男の方にもう少し血が通っていたらと、残念な気がしました。

 (男の作家が書く女はもっと類型化が激しい!! と女性読者に叱られるかも、ですが。例えば「神様のカルテ」のハルなんて、男の私から見ても極端な〝理想の女〟の類型化ですよねえ....)

 綿矢さんは高校生の17歳のとき「インストール」で文藝賞、早稲田の教育学部国文科に在学中の19歳のとき「蹴りたい背中」が芥川賞と、若さと容姿(確かに可愛いというか、きれい^^)が話題になったりしましたが、文章に安定感があって、作品から漂う落ち着きが何より魅力です。やっぱり京都の女性だからなのかな、などと...

 何だかおかしな終わり方(類型化?)になりましたがw