ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

百年を経て妖になった面々 〜「つくもがみ貸します」畠中恵

 私たちが日常に使う道具類、百年の年月を経ると魂が宿って妖(あやかし)になるという。これが付喪神(つくもがみ)です。

 茶碗なんてすぐ割れるし、木製品だってガタがくる。たいていの道具、器物はとても百年持ちません。しかし一方で、精巧な細工を施した文机とか、名工の手による香炉とか、何百年も使用、もしくは保存されている道具も珍しくありません。

 いやそんな銘品でなくても、何世代かにわたって稗や粟や、正月くらいはお米を盛った薄汚れた茶碗も、奇跡的に百年使い続けると付喪神が宿るのです。ふだんは静かにしているけれど、人目がなくなると悪戯を始める...。

 長い年月を経たモノに魂が宿るという精神文化が、日本固有なのかどうか知りませんが、わたしは好きです。なんとも面白い。付喪神だから、いちおう神様なんだけど、たぶん身分は最下層で、たいしたことができないのもかわいい。

 古事記や日本書紀で活躍する神々は、百年過ぎてわいてくるボウフラのような神様(失礼)なんて、存在も知らないでしょう。でも、妙に親近感を抱いてしまう付喪神さんたち。

 wikiで調べると絵巻物があるんですね。最下層の神様だって、調子に乗ったら暴れるみたいな。

 

 「つくもがみ貸します」(畠中恵、角川書店)は、江戸の古道具屋兼損料屋を舞台にした、時代物ミステリー小説。損料屋とは、さまざまな古道具を貸し出す、現代で言えばリース業です。

 深川の女郎屋から大店の商家まで、貸し出す古道具類には、付喪神の宿ったものが数々あり、リース業を営む姉弟もそれは承知しています。付喪神たちが貸し出された先々で見聞きしてくる情報が、謎の事件や難題を解決へ導きます。

 実はこの姉弟、幼なじみですが血のつながったきょうだいではありません。秘めた恋心に読者は途中から気づき、その成り行きは....。最後に決着がつきます。

 個人的にはこの小説、付喪神を主人公にしたところが大正解。宮部みゆきさんの時代物と、東野圭吾さんの謎解き物をミックスしたような味で、憎めない付喪神の面々に楽しませてもらいました。

 ふと見渡せば、わが家に付喪神がおいでになるようなモノは、何一つない。さみしい..