ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

瑞々しい成長と旅立ち 〜「かんかん橋の向こう側」あさのあつこ

 小説の舞台は前作同様、中国地方の山あいにある寂れた温泉町・津雲。自然豊かで、水が美味しく、流れる川に石造りのかんかん橋が架かり。言葉を変えれば『ど田舎』。人は老い、町も老い、歯が抜けるように店が消えて。しかし現代の「故郷」の普遍的な姿とは、ひっそりと老いていくこの温泉町ではないでしょうか。

 食堂「ののや」は、津雲のヌード劇場(すでに倒産)のダンサーだった奈央さんと、血の繋がらない高校生の娘・真子が営む食堂です。常連さんは近所の魚屋夫婦、妻に先立たれた元公務員、潰れそうな温泉宿で働く元不良少年、などなど....。

 個性豊かな面々が「ののや」に毎日のように通い、奈央さんの手料理を楽しみ、飲んで、たわいもない話に盛り上がります。そんな一人ひとりですが、踏み込めばさまざまな過去を抱えています。あるいはとんでもない事件が町の外からやってきて。

 「かんかん橋の向こう側」(あさのあつこ、角川文庫)は、前作の「かんかん橋を渡ったら」から7年が過ぎた物語。10歳だった主人公の真子は、幼なじみと恋をし、進学で津雲から出ていくことに悩む17歳の高校生に成長しています。

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 前作を少し紹介すると、「ののや」はもともと、昔高校野球のエースだった「大将」が、男手一つで真子を育てながら切り盛りしていました。その無口な大将が、仕事前に来る常連のヌードダンサーに恋をします。

 これが密かなバックストーリーですが、ヌード劇場が潰れて最後は一気にメーンストーリーになります。ダンサーの故郷、北海道の貧しい漁村まで大将は行きます。帰ってこい、と言うために。こうして奈央さんは10歳の真子の継母になったのですが、突然大将は倒れて意識が戻ることもなく...。

 7年後の続編は4章の構成。お金をめぐるどろどろした争い、夫に秘めていた亡き妻の過去の大恋愛といった人間模様に、瑞々しい真子の成長と旅立ちが絡んで、多彩な味わいの秀作になっています。

 食べ物屋やコーヒーショップを軸に人間模様を書いた小説は近年、一つのブームのようになっていますが、これはちょっと筋が違うかな。もっとしっかりと、腰を据えて人のあり方を差し出してくる小説です。

 前作から読んでも、こちらからでも、面白く読めると思います。