ことばを食する

本たちとの、出会い、すれ違い、言葉との恋愛。つれづれなるまま記していきます

いのちとの向き合い方 〜「鹿の王 水底の橋」上橋菜穂子

 「鹿の王 水底の橋」(上橋菜穂子、角川書店)を簡単にまとめようとして、はたと迷いました。うーん。東乎瑠(ツオル)帝国を舞台にした医療ミステリー風のファンタジー小説、とでも言うか。2015年に本屋大賞を受賞した「鹿の王」の続編です。

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 いきなり話が変わりますが、江戸時代の後半から終わり、日本では幕府の御殿医を務めた漢方医学に対し、蘭方医学が広がりました。こうなると、ややもすると権力と結びついた伝統的な系統は、一方を排除しようとします。患者としては、医療に二つの系統があって、しかも治療方法や考え方が違うとしたら、大変困ったものですが。

 乱暴を承知で言えば、そんな図式を東乎瑠帝国という架空の国に当てはめてください。漢方に当たるのが、宮廷司祭医を排出する清心教医術。蘭方医学は、前作でもおなじみの主人公・ホッサルらのオタワル医術。

 血友病と推測される難病、政治闘争がからんだ毒入り料理などのミステリー要素を盛り込み、二つの医療の立場から、いのちと医療のあり方が問いかけられます。愛し合いながら身分の違いで結婚できない、ホッサルと助手で恋人のミラルの関係に、大きな変化が訪れるという、恋愛のサイドストーリーも用意されています。

 タイトルにある「水底の橋」は、作品中程にさらりと出てきます。川底に長く対岸までつながる、古い橋の橋桁。特別な解説はないので、読後、川底の橋に何を読み取るかはこちらに任されています。私はいまも、考え中...。

 本の帯によれば「本物の医療がここにあります」「人はなぜ病むのか。そして、いのちとは何か。人類史最大の問いの答えが明かされる」。......さすがに、少しばかり大げさかな。だれが、どんな目的で料理に毒を入れたかという謎解きも、理が絡みすぎて、一読で理解するのはちょっとつらかった。

 個人的には、まず前作から読むことをお勧めします。