ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

高校球児殺害に挑む 老犬+加代ちゃん 〜「パーフェクト・ブルー」宮部みゆき

 日本の小説に探偵という職業は向かないという指摘を、どこかで読んだ記憶があります。もちろん江戸川乱歩の明智小五郎、横溝正史の金田一耕助をはじめ、日本にも名探偵はいますが、シリアスな設定の現代小説で探偵という職業は確かに使いづらいと思います。調査はしても「捜査」をするイメージや実態が、日本ではほぼありませんから。

 「パーフェクト・ブルー」(宮部みゆき、創元推理文庫)は、元警察犬のマサと探偵事務所の加代ちゃんたちが、殺人事件に立ち向かいます。初版が1989年で、宮部さんの記念すべき長編小説デビュー作。作家としての本格的な船出は、なんと探偵小説だったわけです。ちなみに作家デビューは87年に<オール讀物>新人賞を受賞した、短編「我らが隣人の犯罪」です。

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 甲子園で優勝を期待される高校球界の有名投手が殺されます。人気ない夜の工場団地でガソリンをかけて焼かれるというショッキングな事件。元警察犬マサ、つまり犬の視点で描くという点がうまさで、「シリアスな警察小説と一味違う、女子の探偵が謎を解くストーリーを楽しんでね」という雰囲気が漂ってきます。

 実際、楽しめるのです。読み終わってみれば、想像していなかった真実に行き着くまでの複合的な構造がしっかりしているし、不必要な形容詞を省いた直線的な文章は読みやすく、それでいて遊び心が随所に効いています。再読ですが、初の長編作品からすでに「宮部さん、さすが」という感じです。

 作家としてはこの作品から始まって「魔術はささやく」「龍は眠る」「火車」など、そして圧倒的な大作「模倣犯」へとつながります。宮部作品にはさまざまな事件が出てきますが、刑事や制服警官が脇役以上になることはないのも特徴です。

 デビュー当初から、一方で時代小説を発表していたことも見逃せません。「本所深川ふしぎ草紙」(1991年)に始まり、こちらも外れがありません。ストーリーテラーですから、江戸を舞台にした「語り」による人情物その他は、すんなり宮部さんの資質が生きるのだと思います。

 それにしても.....SFも書くし、小説家としての器はすごいの一言ですね。

                     

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