ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

別れの言葉は? 8つのSF短編集 〜「さよならの儀式」宮部みゆき

 「さよならの儀式」(宮部みゆき、河出書房新社)は、8編で構成されたSFの短編集です。連作ではなく、完結するそれぞれの語りを、1話ずつ楽しむ1冊になっています。宮部さんには江戸時代を舞台にした「あんじゅう」のような怪奇談シリーズがありますが、「舞台を現代や未来に設定すれば、こんな作品になるわけか..」と思いながら読みました。

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 分裂していく親子や家族のあり方が行き着いた未来社会の「母の法律」、現代が舞台なら過去から訪れた自分と出会うタイムスリップもの「わたしとワタシ」、隕石衝突のあと知能を持つ宇宙人が人に入り込む「星に願いを」など、宮部さんの語りはどんな話も自然に楽しませてくれ、そしてちょっと考えさせてくれます。

 表題作の「さよならの儀式」は、廃棄物(ロボット)処理業者のカウンターに腰掛けるおどおどした娘が、長い間一緒に過ごした超年代物の、旧式人間型ロボットと分かれる話です。メーンバッテリーを抜かれ、音声認識も発生機能も失った廃棄ロボットが、最後に手話で(そんなプログラムは入っていないはずなのに)娘に別れを告げます。その別れの言葉は....。

 なんだかネタバレのようですが、実はこの1編の主人公は娘ではなく、娘の相手をする廃棄会社の技術者です。彼の視点ですべてが描かれ、最後は彼の叫びのような独白で終わります。まあ、そこはふれないことにします。

 宮部さんといえば大作「模倣犯」の圧倒的な存在感を手始めに、今はミステリー、時代小説、SFと、幅広いジャンルに作品を送り出す人気作家。どんな作品にも共通する「みゆきワールド」があって、それは語り口が生み出しています。わたしにとっては文体というより語り口、ですね。

 ただ個人的には「模倣犯」「龍は眠る」「火車」など、かつての作品のエネルギー感が忘れられず、最近の落ち着いた大人の気配は、ちょっとさみしいかな。