ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

もし俵屋宗達が「最後の晩餐」を見ていたら? 〜「風神雷神」原田マハ

 京都国立博物館で俵屋宗達を研究する望月彩のもとへ、アポ無しでマカオ博物館の研究員が面会を求めてきました。要請を受けてマカオを訪ねた彩は、古い教会跡から発掘された1枚の油絵と日本語の古文書の束を見せられます。

 油絵に描かれているのはギリシャ神のユピテル、アイオロス(風神、雷神)。分厚い古文書には天正遣欧使節団の一員で、キリスト教迫害によりマカオに追放された原マルティノの署名が。そして中に何度も出てくる日本人の名前「俵..屋..宗..達」。

 小説家の想像力とは、かくも大胆に飛翔するのか。読んで思わずため息した上下2冊が、「風神雷神」(原田マハ、PHP)でした。京都国立博物館に寄託されている国宝「風神雷神図屏風」は、安土桃山時代から江戸時代初期に生きた絵師、俵屋宗達の傑作。ところが俵屋宗達は生年も没年もはっきりしない「謎の絵師」です。

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 史実がはっきりしないとは、研究者の大胆な仮説や、小説家の自由な想像力を受けいれるフィールドが大きいということでもあります。作品は望月彩のプロローグから、俵屋宗達の生きた時代へ一気に400年以上タイムスリップします。

 織田信長、狩野永徳と「洛中洛外図」、天正遣欧使節団とローマ教皇など、もし事実がそうだったらどんなにわくわくするだろうか!という人びとが、若き俵屋宗達を軸に結び付いていきます。

 プロローグの謎を解くダイナミックさは、原田さんのアート小説の中でも群を抜いていて、スケール感が爽快なほど。そして絵画を細かく描写すれば、もともと美術の専門家・キュレーターだった原田さんは相変わらすの筆致です。

 しかしなあ〜、レオナルドの「最後の晩餐」の前で、やがて琳派の祖となる日本の少年と、ヨーロッパのバロックを代表することになる少年が友情を結んでいたなんて!。真面目な研究者がひっくり返るような夢想、いやロマン(=フランス語では小説)。

 それより、当時「最後の晩餐」は描かれてからおよそ90年。現在は見るも無惨な状態ですが、せめて当時の実物を見ることができたら...と、「最後の晩餐」の描写を読んで痛切に思ってしまいました。

 もし俵屋宗達が本当に「最後の晩餐」や、ルネッサンスの巨匠たちの作品を見ていたら、「風神雷神図屏風」は果たしていまの姿だったか。想像を巡らすと楽しくなります。

 原田さんに個人的なオファーをすれば(できるわけありませんがw)、次はぜひレオナルド・ダ・ヴィンチか、ラファエロを書いてもらいたいなあ。

 

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