ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

言葉は時代を映す 〜「消えたことば辞典」(三省堂)

 国語辞典の編纂、編集とはどんな仕事で、いかなる人たちが携っているのか。もし職業別人口分布の詳細統計があったなら(あるかもしれませんが調べていませんw)、国語辞典編集者は0%=誤差の範囲内=になってしまいそうな、マイナーな存在。そんな稀少生物のような人たちの生態を、面白くも魅力的に描いた小説が、三浦しをんさんの「舟を編む」(光文社文庫)でした。

 「三省堂国語辞典から 消えたことば辞典」(見坊行徳、三省堂編修所編著)は、地味な辞書の老舗出版社が世に問う、痛快な企画!。いや、言葉に特別興味がない人にとっては、どこが痛快なのかさっぱり分からない企画本かもしれませんが。

 

 新しい言葉は日々生まれ、世に定着したと判断されれば、国語辞典改訂の折に収録されます。一方、廃れて死語になったと、彼ら言葉の専門医が診断を下したとき、辞典から削除されます。収録、削除の基準は出版社それぞれです。

 多くの人がかつてお世話になった、三省堂の国語辞典。そこから消え去った言葉をコレクションしたのが本書です。1943年の「明解国語辞典」(1952年改訂)以降、受け継いだ「三省堂国語辞典」(1960年初版、2022年に第8版)まで、改訂を機に削除されたあまたの言葉から1000語を厳選しています。

 この本、「面白すぎて一気読み!」とか「感動で涙した」という人は、誤差の範囲内のほぼゼロでしょう。しかし、わたしは衝動買いしてしまいました。

 拾い読みすれば、言葉による小さなタイムスリップ。夜に焼酎飲みながら「ふむふむ」と、感慨に耽るのも一興です。基本、当時の辞書掲載の体裁で採録してあります。

 ちゃくメロ[着メロ](名)<着信メロディー。商標名>携帯電話などに着信したときに出る音/音楽。

 ファミコン(名)<←和製英語 Family Computer=商品名>初期の家庭用テレビゲーム機。

 え、これら三国(さんこく=三省堂国語辞典)から消えてるの?。

 はい。「着メロ」は2001年の改訂で採録され、2022年版で消えたそうです。「ファミコン」は1992年版で登場しましたが、とうの昔の2008年版で削除されたとか。光陰矢の如しだあーと感慨にふけりつつ、どちらも現役の言葉のように思っていたことに、冷や汗するのはわたしだけ?

 こギャル[コギャル](名)<俗>顔を黒く焼いたりする、ファッションが派手な女子高生など。<1990年代からの言い方。もと、大人の女性のまねをして遊ぶ女子高生を指した>⇨:ギャル

 2001年採録。2022年削除。この項目にはミニ解説が付されていて、マゴギャル(同様の中学生)ガングロ(顔が黒い)ヤマンバ(髪を銀色染めた若い女性)などは、最初から採録が見送られたとか。一方で「ギャル」は、現在も辞書に健在だそうです。

 アイモード[iモード](名)<商品名>携帯サービスからインターネットに接続できるサービス (2014年削除)

 うーむ。最近ご無沙汰だとは思っていたが、アイモード、お前も消滅していたか。iモードがもてはやされたころは田舎の支社編集部勤務で、事件や議会のごたごたなどいろいろあったなー。

 個人的に印象深い項目を取り上げましたが、なにせ1000語。どの言葉に反応するかは、あなた次第です。にしても、けっこう長く生きてきたんだなあ、自分。今夜も焼酎が心に沁みます。

 

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