先日まで昼は半袖でも過ごせましたが、もう長袖の時季です。秋は太陽の位置が低いので、窓から入る日射しが部屋の奥まで伸び、外に出れば目に映る自然がより輝いています。日の光が低いから地上がきらきらし、逆に青空は高い。
「空の高い国」。スペインという国について、古い知人が言った言葉です。フラメンコギターに狂った彼はスペインに渡り、数年後に帰国、京都の汚いアパートの一室でわたしにそう話しました。
でもこの時季だけは、日本も「空の高い国」なのだと思うのです。わたしが住む地では、紅葉はまだ北アルプスの標高2,000メートルあたり。足早に下界へと向かっています。そして日没が早い。帰宅するころにはすっかり暗くなっています。
<灯火親しむべし>は唐代の詩人・韓愈(かんゆ)の一節を出典にした成句。秋の夜長は明かりの下で書を開くのがよいと教えています。
そうは言っても現代人の生活実態は一日中、パソコンかスマホばかりにらんでいます。電車の中で本や新聞を開く人は今や「絶滅危惧種」でしょう。感染予防の自粛が続き、ネオン街で飲食する機会が減っても、なかなか家で読書とはなりません。
本や雑誌は1990年代後半から、市場の縮小が止まりません。全国出版協会によると、新型コロナによる「巣ごもり効果」が期待された2020年1ー6月期も、売り上げは前年同期に比べてマイナスでした。
そんな紙の出版物の苦戦を補っているのは電子書籍です。有料のデータをダウンロードして端末のディスプレーで読む。どんなものかと、試してみたことがあります。
10年近く前、iPadが発売されると同時に手に入れたわたしは、Kindleほか電子書籍を読む各種ソフトを入れ、宮部みゆきさんらの新刊やベストセラー本を購入しました。
確かに便利なのです。青空文庫などは無料で、著作権が切れた名作が読み放題だし。けれど、どうにもしっくりこない。これは年齢のせいなのか、わたし個人の資質なのか。
結局、本は造りや紙の手触りも含めた<文化>なのだと再認識しました。
一方で店頭に並ぶことのない電子書籍の売買は、私たちが長年親しんできた街の本屋さんにとってもつらい仕組みです。これからますます、本屋さんは消え続けるのでしょう。古本業界に関しては、ネットに販路を求めた厳しい環境が続くと思います。
恒例の読書週間が11月27日から始まります。元をたどれば、1924(大正13)年に日本図書館協会が始めた「図書週間」。時代はIT社会へと一変しても、本は変わることなく心の栄養素であり続けるでしょう。
青春時代の数年をスペインで過ごした彼が、その後どこでどうしているのか、わたしは知りません。不思議なことに、思い出すのは彼のアパートに行くために、京都駅からバスにのったという記憶ばかりです。
そして、わたしは焼酎も数日前からお湯割。飲みながら、今夜も<灯火親しむべし>。